「とにかくやってから、直せばいい」。ヤマハ社長が語る「組織は手段」の信念

中田卓也 ヤマハ代表執行役社長(フォーブスジャパン4月号より)


強引だと誹りを受けながらも推し進めたのは、「組織は手段」という信念があるからだ。中田には組織改編で実績を上げた成功体験がある。

20代の頃には、非効率な組織を整理するべく会社を動かした。ベテラン社員の管理職ポストを確保するための組織に無駄を感じたからだ。

電子楽器の商品開発部副部長時代には、電子楽器事業部とPA(音響機器)事業部の統合を主導。電子楽器の開発手法をPAにも移植して、赤字続きだったPA事業を2年目に黒字化させた。

今回の組織再編でも、さっそく手ごたえをつかんでいる。たとえば工場の稼働率。ギターや電子楽器はクリスマス商戦がピークだが、吹奏楽部員が主なユーザーである管楽器は、日本なら2〜3月、アメリカなら7月〜8月の新年度前によく売れる。

それぞれシーズンが違うため、楽器ごとに工場が分かれていたころは、ある工場はフル稼働なのに、別の工場はラインが止まっているというケースがよくあった。

しかし、生産機能をまとめたことで工場の稼働が平準化。ムダがなくなって、3年で150億円のコスト減になった。再編前は2.5%だった営業利益率も3年で9%へと改善。いまは12%をうかがうところまできた。

商品開発の可能性も広がった。16年には、アコースティックと電子のハイブリッドである「トランスアコースティックギター」を発表。この技術はピアノに採用されていたが、事業部制廃止でギターにも横展開が可能になった。

さらに17年には、新構造のカジュアル管楽器「ヴェノーヴァ」を販売。これも開発機能をまとめたことで生まれた製品だ。

イノベーションセンターには、「イノベーションロード」が併設されている。「ヤマハは総合楽器メーカーとして世界一。ただ、情緒的な面も含めてトップブランドとして認知されるには、もっと積極的な発信が必要」という中田の肝煎りで開設された企業ミュージアムだ。

館内には、創業当時のオルガンから最新のヴェノーヴァまで、ヤマハの歴史を彩ってきたヒット製品が時系列で展示されている。ただ、一番端は展示がなく、空白のままだ。

「社員には、このスペースに入るものをつくってほしい。そういう思いを込めて、あえて空けているのです」

そう語る中田の声は、無響室でも響きそうなくらいに力強かった。


なかた・たくや◎1981年慶應義塾大学卒業後、日本楽器製造(現・ヤマハ)入社。ヒット商品となる小型シーケンサー「QY10」の企画・開発を手がける。99年電子楽器と音響機器の事業部統合を主導。2013年6月に社長就任。同年8月に事業部制を廃し、機能別組織に改変。

文=村上 敬 写真=苅部太郎

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