ビジネス

2019.04.12

巨額損失でも「10兆円超え上場」が予想されるウーバーのビジネスモデルとは

Photo by Ali Balikci/Anadolu Agency/Getty Images


ビジネスモデルの収益源を多角化する

しかし、自動運転のライドシェアサービスが実現するにはまだ時間がかかる。ウーバーは2018年3月に米国アリゾナ州で自動運転車が実験中に死亡事故を起こしたことで公道での実験が中断され、開発スピードも鈍っている。

2017年に発覚した社内セクハラ事件以降、アメリカでのライドシェア市場でのシェアも下がっている。米国ライドシェア市場でのウーバーのシェアは2017年初めの82%から2018年12月末には69%まで低下しており(日本経済新聞2019年2月20日記事)ウーバーのビジネスモデルが本当に成功するのか、投資家の疑念もある。

そこで、主力の自動車のライドシェア事業以外でもどうやって収益を拡大できるのかが重要な焦点になってくる。

ビジネスモデルにおいて収益力を高める工夫を収益源(レベニュー・ストリーム)の多様化という。ウーバーはスクーターシェアや自転車シェアの事業も展開しているが、現在ウーバーの収益を増やす上でもっとも貢献しているのが「ウーバーイーツ」だ。

ウーバーイーツはウーバーのドライバーのネットワークを活用して飲食店の料理を宅配する事業である。主力のライドシェア事業の拡大のスピードが低下しているウーバーにとって、ウーバーイーツは目下のところ最も利益が出る急成長の事業である。成功のポイントは、余分な追加コストがかからずにマージンを稼げる点にある。

ウーバーイーツの儲けの仕組みはこうだ。まず、料理の宅配を注文したユーザーから距離に応じてスライドする配送手数料が入る。さらに、レストランから注文代金の30%をマージンとして受け取る。加えて、ドライバーの配達報酬から一定比率の手数料を取る。このように、三方から売上が上がる仕組みになっているのがミソだ。

その上で、すでに稼働しているライドシェア事業のドライバーのネットワークを活用できるので、配送サービスのコストを大幅に節約できるのが大きい。

とはいえ、注文代金の30%もウーバーに取られるのは馬鹿らしいと距離をおく飲食店も少なくない。すでに参加しているレストランでも対策としてウーバーイーツ専用のメニューと価格を設定するケースがみられる。

しかし、デリバリーによって追加の売上を増やしたいと考えても、自ら人を雇って配達サービスを行う余裕まではない飲食店がむしろほとんどだろう。ユーザーに人気のあるウーバーイーツは、そんな飲食店にとって有力な選択肢になっており、主力のライドシェア事業を助けるウーバーの新たな成長エンジンの役目を果たしつつある。

自動車業界は、生き残りをかけたビジネスモデル競争の真っ只中

MaaS(Mobility as a Service)というコンセプトが注目されている。フィンランドのWhimが有名だが、電車、バス、タクシー、レンタカー、自転車などさまざまな交通手段を統合し最適に活用できる総合的な移動サービスだ。Whimが稼働するフィンランドの首都ヘルシンキでは、すでに人口の10%がユーザーとされる。

WhimのようなMaaSの導入が、今世界中の都市で進行しつつある。大きく見れば、ウーバーなどのライドシェアビジネスも、「MaaS革命」の一部だ。そのビジネス・ポテンシャルはとてつもなく大きい。米国調査会社ARK Investの調査では、MaaSの市場規模は2030年初め頃までに10兆ドル(約1100兆円)を超える。

社会の仕組みやライフスタイルを根本的に変えてしまう可能性を秘めたMaaSの台頭に揺さぶられているのが、自動車業界である。

自動車業界にとって最大の脅威は車が売れなくなることだろう。MaaSが浸透すればコストが割高なマイカーを持つ人は確実に減ると言われている。実際、世界に先駆けてMaaSが浸透しているフィンランドでは先述したWhimのユーザーにおけるマイカー利用が大幅に減少している。自動運転タクシーが普及する2020年代後半には、車の販売台数は今より半減するという衝撃の予測もある。

もし将来的に自動車の新車販売台数が半分に減るならば、車メーカーは自動車を製造して販売する現状のビジネスモデルだけで生き残れないだろう。

実際、トヨタは昨年世界最大の家電見本市CES2018において豊田章男社長が車メーカーからモビリティカンパニーへ変わることを公に宣言した。GMのCEOのメアリー・バーラ氏は、「これからの5年間は、過去50年よりも大きな変化が起きる」と危機感をあらわにしている。
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文=河野龍太

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