しかし、車が到着するのは、屋台のような庶民的レストランの前。エアコンなどもなく、簡素なテーブルと椅子が並ぶだけの店だ。人気メニューは「ロティ」と呼ばれるパンケーキ。1960年代に創業されたこの店では、2代目のドンさんと3代目のジェートさんが仲良く並んで、見事な手さばきで生地を伸ばし、炭で火を起こした鉄板の上にロティを載せてゆく。
朝しか営業していないこの店だが、訪れる客は引きも切らず、料理が売り切れ次第閉店となる。そのため、せっかく行っても食べられないこともあるが、この高級リゾートが供するツアーに参加すれば、そんな心配はない。
実はこのツアー、タイのプーケットにある高級リゾートホテル「トリサラ」が、新しく始めた「ローカルフード体験ツアー」だ。
「トリサラ」とは、サンスクリット語で「3番目の天国にある庭」を意味するが、リゾートの中には、プーケット唯一の星付きレストランをはじめ、2つのきちんとしたレストランもある。それなのに、何故、あえてこのようなツアーを企画したのか。
「かつてこのリゾートを訪れる人の平均年齢は57歳だったが、今の宿泊客の平均年齢は37歳。しかも、LCCなどにより航空券が安くなり、手軽に旅行ができるようになったため、若い世代は海外旅行に慣れている。リゾートは、どこも同じではなくて、そこにしかない個性が必要なのだ」
こう語るのは、トリサラのジェネラル・マネージャー兼マネージング・ディレクターのアンソニー・ラークだ。オーストラリア人のラークは、プーケット在住30年。ここを拠点に、最初は高級リゾート「アマン」グループの最年少GMとして、各所のオープニングに携わったのち、自らの理想のリゾートを目指して、このトリサラを創った。
まるで地元の人になったような体験
「リゾートは変わり続けていくべき」という信念を持つラークは、これまでも、有名シェフを招いてのポップアップイベントなどを行なってきたが、「ここにしかない体験」を考えてたどりついたのが、ローカルコミュニティとの連携だ。
ローカルフード体験ツアーで訪れるのは、数多くのプーケットのローカルフードの店の中から、ラーク本人はもちろん、タイ人の奥さんであるスワニーやその友人、タイ観光局の人間などが試食を繰り返し、選び抜いた店で、どれもミシュランのビブグルマン(コスパのいいおすすすめ店)に輝く店だ。
ツアーには、必ず英語とタイ語が話せるスタッフも同行するので、メニューが読めない、オススメがわからないという心配もない。それどころか、店の歴史について話を聞きたい、料理のつくり方を知りたい、などの知的好奇心にも応えてくれる。
ツアー代に飲食費も含まれていて、スタッフが支払うため、現地通貨に途惑うこともない。ローカルの親しい友人がいないとなかなか得難い、まるで地元の人になったような体験が、至れり尽くせりのサービスと共に受けられるという訳だ。