iPhoneが発売されて10年。昨今スマートフォン産業はイノベーションに乏しく、すでにピークを過ぎたと思われていた矢先の発売だった。英国BBCは「世界通信の発展史に残る代表的製品だ。大哥大(元祖の携帯電話)やiPhoneとともにその名を連ねるだろう」と評した。
「たった一人で暗闇に懐中電灯をかざして、トンネルを掘っているみたいでした」
開発に着手した2012年当時のフレックスパイのコンセプトや実装化までの道のり、そして自社がユニコーン企業となった現在に至るまでの経緯を説明しながら、柔宇科技の創始者兼CEOの劉自鴻氏はこう振り返った。
なんと言っても、フレキシブルディスプレイの開発製造は前例がない分野だ。そのため柔宇科技は、技術的な問題はもちろん、量産化のための方法、マーケティング戦略など、多くの困難や問題に直面した。劉自鴻氏は「フレックスパイに希望を持っています。スマートフォンの形態が移り変わる中で、かつてのiPhone3のように、クリエイティブかつ歴史に残る製品になるはずです」と語る。
劉自鴻氏は、2018年、フォーブス中国の長者番付400人中168位にランクイン。資産は116.6億元(約2兆円)だ。
劉自鴻氏は「フレキシブルディスプレイ開発の道を選びましたが、その選択の正しさを疑ったことはありません。ある重要なポイントでイノベーションを起こそうとするときこそが、ゼロリセットのチャンスだと思っています。そういうポイントでこそ、スタートアップ企業は、老舗の大企業と対等に、スタートが切れるわけです」。
2019年、携帯電話業界の競争の焦点はすでにフルディスプレイから折りたたみ式に移った。今年2月末に開催されたモバイルワールドコングレス(MWC)では、サムスンやファーウェイも折りたたみ式携帯電話を展示した。フレックスパイは、激しい商業戦の先行権を勝ち取ったわけだ。
開発は「コンシューマーエレクトロニクス専任」チームで
10年前、われわれの誰もがiPhoneを予想しなかった。ニーズに先行して、潜在的なニーズに手を伸ばすことが真のイノベーションといえる。劉自鴻氏は「消費者の多くは、わが柔宇科技を、フレキシブルディスプレイのイノベーション企業と見ています。しかし、実はマーケティングにも必死で、2013年の創業後2年目には『B2Cチーム』を作ったんです。コンシューマーエレクトロニクス専任のチームです。そこで、フレキシブルディスプレイの実装化と研究開発を同時に進めました」
この点こそが、フレックスパイがアップル、サムスン、ファーウェイの携帯と明らかに違うところだ。
2014年、柔宇科技は、業界初、厚さ0.01ミリの最薄フルフレキシブルディスプレイを発表した。さらには、翌2015年までに生産ラインを設置し、2018年には量産化体制を構築した。
ディスプレイも「自前」で製造
大部分の携帯電話メーカーは自社でディスプレイは作らず、専門のディスプレイメーカーから調達する。しかしフレックスパイに搭載されたパネルの基幹技術は、同社が自前で研究開発したものだ。
iPhoneのインターフェイスが出現した後の数年間でスマートフォン分野では多くの刷新や改善があった。「柔宇科技のフレックスパイはただの携帯電話でなく、人と機種の新しい交わり方を象徴しています」。