ビジネス

2019.04.13

1兆7000億「フレキシブルスマホ」市場に世界初参入。「中国のジョブズ」の野望

柔宇科技(Royole)創始者兼CEOの劉自鴻氏(写真=フォーブス・チャイナ提供)


携帯電話ディスプレイは今まで技術イノベーションによってけん引されてきた産業だ。IPSパネルから曲面ディスプレイ、さらに折りたたみ式、フレキシブルディスプレイへというのがパネル発展の大きな流れだ。実際にAMOLED(アモレッド・自ら発光し、高コントラストでの表示が可能)の応用で最も将来性があるのは、ガラスベースのリジッドディスプレイや曲面ディスプレイではなく、フレキシブルディスプレイだという。

劉自鴻氏は、概念を明確にしておくと述べた上で、曲面ディスプレイは本物のフレキシブルディスプレイとは違う、と話した。ユーザーが手元に届いた製品を折り曲げたり、巻いたりして何度も変形させた際の耐久性を実現する点で、フレキシブルディスプレイ開発は曲面ディスプレイのそれとは、比較できないほど難しいという。「次世代フレキシブルディスプレイの実装」はまさしく、柔宇科技が創業時の2012年に定め、挑戦してきた到達点だ。

携帯電話チップ、通信ネットワーク、携帯電話のディスプレイは消費者にとって一般的に非常に身近で、日々数えきれない頻度で接するものだ。携帯電話で一番重要な、「1つのチップ、1つのディスプレイ」は、実のところ通信業界全体におけるベースとなっている。携帯電話のディスプレイの重要度はチップと同じくらい高いのだ。

柔宇科技が創業した当時、フレキシブルディスプレイは熟知されていないどころか、世界的にも、実用よりは学術研究に近いの分野と考えられていた。産業化・量産化のレベルに達するまでの道程は遥か彼方であると。柔宇科技が当時、投資コンサルティングに相談した際には「産業化には30年以上必要」と言われたという。

ディスプレイの分野は大きな投資が必要な分野であり、目覚ましい投資実績で業界全体を引き上げる必要があった。このため、多くのディスプレイ企業は、ガラスベースのリジッドAMOLEDパネル、ならびに後継の曲面ディプレイへと、全神経を集中した。

2020年までにフレキシブルOLEDの占有率は62%に上昇すると予測されている(2016年は27%)。2019年には、フレキシブルディスプレイの生産能力はIPSパネルを逆転して61%に到達すると予想される。さらには2022年までに、世界のフレキシブルディスプレイ市場の規模は155億米ドル(約1兆7300億円)に達すると考えられているのだ。


柔宇科技の世界初折りたたみ式フレキシブルディスプレイ搭載携帯電話「フレックスパイ」。2018年中国国際ハイテク成果交易会(高交会)でデビューを飾った。

販売台数の「神話」

2018年11月、フレックスパイの予約販売が開始された。出荷台数はいったいどれくらいの規模になるのだろうか。

「100万台以上になれば最高ですが、せめて数十万台には到達してほしいと思っています」。そう答える劉自鴻氏の口調は、iPhone発表時のスティーブ・ジョブズのそれを思い起こさせる。このときジョブズは「2008年に市場シェア1%を取れるといいなと思っている」と語った。ところが、iPhoneは発売1年目で、スティーブ・ジョブズの予想を30%上回る販売台数を達成した。翌年、ノキアなどの携帯電話の売上高は一気に落ちた。

アップルさえ中国では値下げをするようなこのご時勢に、8999元(約15万円)以上するフレックスパイを、消費者はなぜ買おうと思うのだろうか。

「ユーザーは『価値』に対して対価を払います。イノベーションに対してお金を支払うのではありません」。劉自鴻氏は言う。フレックスパイの価値とは、簡単に言えば、携帯電話2台(デュアルSIMデュアルスタンバイ)にiPad1台を融合したようなものだろう。さらにフレックスパイは携帯が便利で、こわれにくい。こうした観点で考えると、同機種は非弾力的な複数の需要に応えた製品であると同時に、コストパフォーマンスにも優れていると言えるかもしれない。
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写真=フォーブス・チャイナ提供 編集=石井節子

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