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2019.04.14

「アラブのジダン」を欧州移籍に導いた女性エージェントの軌跡

ソニア・スイッド(写真=Forbes France提供)


最初にソニアと契約したのは、「アラブのジダン」と称されるイスマイル・マタル。彼に、アラブから史上初の「ヨーロッパ移籍」を叶わせる。さらに2012年には、同国の代表選手でもあるハムダーン・アル=カマーリーの、フランス・リヨンへのレンタル移籍に成功している。

2013年、ソニアはスポーツマネージメント会社、「CSMスポーツ&エンターテイメント」に籍をおいた。国際陸上競技連盟会長のセバスチャン・コーが責任者を務めるこの会社は、ヨーロッパのみならず世界18カ国、25カ所に支局を持つ業界最大手のひとつである。ソニアも韓国、日本、中国、イランなど、さまざまな場所へ赴き、新しい市場に刺激を受ける。

彼女は、「才能は、ヨーロッパに限らず世界中に存在する」と信じて邁進。仕事をしていく中で4カ国語を話せるようになったことも、「かけがえのない強みになった」とソニアは言う。

クラブチーム「オリンピック・リヨン」の代表、ジャン=ミシェル・オラスの信頼を勝ち得てアラブの選手の移籍を実現させたことを皮切りに、2013年、マリー=ロール・デリーに、モンペリエからパリ・サンジェルマンへの、D1女子(フランス女子国内1部リーグ)では初となる、移籍金の伴う契約を結ばせた。移籍金は推定5万ユーロだった。

また2014年には、フランス2部リーグの男子チーム「クレルモン・フット」に、女性監督コリンヌ・ディアクルを就任させた(ディアクルは2017年にフランス女子代表監督となり、今年6月からフランスで開かれる女子W杯に臨む)。さらに2015年には、アルゼンチン出身のルーカス・オカンポスをオリンピック・マルセイユへの移籍へと導いた。現在ソニアは、各国リーグに所属する40名の選手と契約をしている。

エージェントで成功するのはほんのひと握り

エージェントには2つのタイプがあるという。1つは選手のマネージャーとして、選手の日常やスケジュールなどの調整役をするタイプ。もう1つがクラブと密接な関係になり、自分はどんな選手を抱えているか売り込んでいくタイプ。

「この2つは両立できます」とソニアは断言する。契約交渉とクラブへのアドバイスのノウハウを持っていることが、彼女の強みでもあるからだ。

エージェント報酬について具体的な数字をソニアは言わないが、フランスのサッカー協会に登録している約400人の代理人のうち、食べて行けているのは40人ほど、豊かに暮らしている人になるとさらにごく一握りの人だけだという。

「私は幸運なことになんとかやっていけていますが、すべての人がこの仕事で成功するわけではないと思います」

競争の激しい男社会、経済的にも厳しい環境。若い女性やお人好しでは生き抜いていけない世界だ。ソニア自身、この仕事に挑戦するには、「エージェント本人にもともと安定した経済基盤と、幅広くしかも強固な人脈がなければやっていけない」と言う。

「この仕事をしていると本当のところ、サッカーで人生が狂ってしまうのでは、と恐ろしくなることもあるんです。人格が変わってしまうのではと思ったり、そう、何よりも、情熱が枯れてしまいそうになったり」。そう言って、ソニアはため息をついた。

「でも自分の心と体は、自分で守らなければなりません。だから、家族や友だちと過ごす時間を取ることを心がけています。私だって、女としての幸せを忘れたまま50歳を迎えたくはないので」

公私を両立させるとソニアは心に決めている。これからもさらに、さまざまな快挙で世界をあっと驚かせてくれるだろう。

原文

翻訳=竹若理衣 編集=石井節子 写真=Forbes France提供

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