経済・社会

2019.04.10 15:10

データ至上主義を生き残る鍵は「人間観の探求」にあり


──人間的な世界とはどのような世界でしょうか。

重要なポイントは、自然主義的なアプローチは使っても、人間は他の動物とは違うユニークな面を持っているという点にも着目することです。人間は単なる動物ではなく、再帰性を持った存在です。そういう人間に対する見方を深めないといけない。

経済学に心理学や進化論、行動生態学や認知科学、神経科学が組み込まれたように、人類学や哲学など、様々な分野ともっと統合して、人間の本質に結びつけて理解していくことが必要です。

哲学者のマルクス・ガブリエルは、人間の本質は「自分が何者であるか」という自己概念を形成することだと唱えています。この自己概念が人間の行為を方向付け、その行為によって、正義、道徳性、自由、友情などの自己概念がさらに再生産されます。人間の精神、自己認識と世界の関係は、「予言の自己成就」的な状態です。経済学も同じで、経済学者が考えた制度が世の中に実現される側面がもともとある。自分たちや人類の営みの再帰性について、考える視点が必要です。

──ビジネス界にはどのような影響がありますか。

一番わかりやすいのはGDPです。GDPは経済学者が作った概念で、GDPを物差しに経済成長を考えていいのかも分からない。イノベーションやソフトウェアが重要度を増している中で、製造業中心の概念であるGDPの意義はますます曖昧になっています。GDPを金科玉条のように考えて、経済成長が必要だと考える必要はありません。

経済学自体も人間が作り出した不完全な制度です。非現実的な仮定のうえに人工的なモデルを作って、現実経済について推論しています。それで現実についてものを言えるのかは不思議なことですが、そうしていることは事実です。

経済学も、経済学によって成立している経済制度も、人間が創り出したもの。その意味をもっと掘り下げれば、経済成長以外の道が見えてくるかもしれません。


たきざわ・ひろかず◎中央大学経済学部教授。1960年、東京都生まれ。東京大学大学院経済学研究科修了後、東洋大学助教授、経済産業研究所フェロー、多摩大学准教授などを経て、2010年4月より現職。独エアフルト大学のマックス・ヴェーバー研究所に在籍中。

構成=成相通子 イラストレーション=マシュー・リチャードソン(ハート)

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