訪日外国人の増加より、日本人の出国率の低さが気になる

羽田空港国際線ターミナルの深夜便に並ぶ若い人たち


こうした若い世代の変化はあるものの、全体でみると、日本人の海外旅行は久しく盛り上がりに欠けている。近隣アジア以外では、ハワイやグアムなどを訪れる人こそ例年並みながら、欧州方面への渡航者はテロやデモの風評も影響して停滞している。伸びているのは、LCCなどを利用した「安近短」の個人旅行というのが実情だ。

気になる数字がある。日本人の出国率の低さが、近隣アジアの国のなかでも際立っていることだ。たとえば、韓国の場合、人口約5100万人に対して出国者数は2676万6000人(2017年 韓国法務部)で出国率52.3%。台湾は人口約2350万人に対して同じく1565万4579人(2017年)で同66.4%。

一方、日本は人口1億2700万人に対して出国者数1895万4000人(2018年)で、14.9%という出国率は、韓国の3分の1、台湾の4分の1だとすれば、驚くほど低いと言わざるを得ない。

足を運ばず、情報だけで満足か

実は、この出国率の低さは最近のことではない。日本人の海外旅行者数は、すでに1990年代半ば頃から1600万人~1800万人の間で伸び悩んでいる。日本を訪れる外国人は著しく増えたが、日本人の海外旅行者数はこの25年間増えていないのである。

理由はいろいろ考えられる。国土の大きさの違いがあり、韓国や台湾など小さな国ほど出国率は高くなりがちだ。観光資源の集積度で日本が恵まれているのは確かで、海外に行かなくても国内で旅行を楽しめる環境にあるからと言えなくもない。

また、多くの日本人が、趣味やレジャーの多様化によって、海外旅行にお金をかける価値をあまり感じなくなっていることも挙げられるだろう。近年の近隣諸国との政治関係の悪化や朝鮮半島情勢にみられる国際社会の不穏な雲行きも、多くの日本人を内向きにさせるのに十分かもしれない。

キャッシュレス
キャッシュレス化が乱立しているが、QRコードを使うのは訪日外国人全体の4人に1人の中国人のみ。残りの3人はカードで事足りるので、むしろカード決済の普及が先決ではないだろうか

とはいえ、近隣アジアの国々に比べ、これほど極端に日本人が出国しないというのは、さすがに心配である。ここで1人あたりのGDP(2017年)を比較しても始まらないかもしれないが、韓国(29位)や台湾(36位)は、日本(25位)より低いことを考えると、日本人の出国マインドの萎縮は、単に懐具合の問題だけではなさそうだ。

昨今では訪日外国人の増加ばかりが取り上げられがちだが、彼らが増えた理由は、結局のところ、経済成長で所得の向上した近隣アジアの人たちからみて、長期デフレの日本の物価が相対的にみて高いと感じなくなったからなのだ。これは日本人にとって素直に喜べない話だが、実際にアジアの国々を訪ねたことがある人なら実感しているだろう。出国率の低さは、この種の近隣アジアに対する理解も含め、日本人の情報格差を拡大しているおそれがある。

そもそも海外旅行に行く、行かないというような話は、人に無理強いするものではない。それでも、メディアやネットを通じて伝えられる海外の情報がどれほど公平で客観的なものなのか、自分なりの判断指標を持つために、自分で海外に足を運ぶことが、これほど必要とされる時代はないのではないだろうか。これは若い世代に対してより、むしろ、この国の大人たちに言いたい気がしている。

[訂正]2017年の韓国の出国者数と出国率に次の誤りがあり、訂正いたしました。出国者数5344万人と記載しておりましたが、この数字は出入国者数の合計で、出国者数は2676万6000人でした。

連載 : ボーダーツーリストが見た 北東アジアのリアル
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