そんな彼が3月19日、スタートアップ「インポッシブル・フーズ(Impossible Foods)」が製造する植物由来肉「インポッシブル・ミート(Impossible Meat)」を使い、彼の名前を冠したチーズステーキ・サンドイッチを発売すると発表した(チーズステーキとは、ペンシルベニア州フィラデルフィアを発祥の地とするサンドイッチで、炒めた薄切り肉と溶けたチーズを長いロールパンに詰めたもの)。
「クエストラブのチーズステーキ(Questlove’s Cheesesteak)」と名付けられたこのサンドイッチは、プロ野球チーム「フィラデルフィア・フィリーズ」の本拠地「シチズンズ・バンク・パーク」で3月28日から販売が始まり、ホームゲーム全81試合が終わると同時に終了する予定だ。
さらに、今後数カ月間は、大手イベント会社「ライブ・ネイション(Live Nation)」が所有・運営する全米40カ所のコンサート会場で、メニューに加えられる。ライブ・ネイションは2018年、「インポッシブル・バーガー」など、インポッシブル・フーズの代用肉を使用した料理を、コンサート会場としては初めて35カ所で提供した。
クエストラブは、今回の商品発売についてこう述べた。「最初のパートナーとして、フィリーズとライブ・ネイションを迎えられることは素晴らしい。私のふるさとであるフィラデルフィアへの愛情と音楽への愛情を一緒に表現できる」
クエストラブ
アメリカの音楽業界を牽引するクエストラブは、米フード業界へも貢献しており、その存在感はますます高まりつつある。彼が書いたノンフィクション書籍『Something to Food About: Exploring Creativity with Innovative Chefs(食について話そう:革新的な料理に取り組むシェフとの対話を通して創造性を探求する)』は、料理界で最も栄誉ある「ジェームズ・ビアード賞」の書籍部門にノミネートされたほか、フード・サロンと呼ぶディナーパーティー風イベントをたびたび開催し、食と文化の著名人を引き合わせている。
また、フードメディアにも頻繁に登場。リアリティ料理番組「トップ・シェフ」や、世界の料理を紹介する「アンソニー世界を駆ける」などにも出演してきた。
「2015年に初めてインポッシブル・ミートを食べたとき、その製品と会社にすっかり夢中になった」とクエストラブは話す。2年後の2017年には、シリコンバレーに本社を置くインポッシブル・フーズに出資し、ビル・ゲイツなどの投資家の仲間入りを果たした。
インポッシブル・フーズは、そのミッションの中心として環境の改善と健康の向上を掲げ、植物をベースにした肉、乳製品、魚の代用食品を開発している。
同社創業者で最高経営責任者(CEO)のパット・ブラウン(Pat Brown)によれば、インポッシブル・フーズの主力製品である植物由来のバーガーは、アメリカ、香港、マカオにある5000を超えるレストランで提供されている。同社の製品は、製造の際に「使用される水の量が約75%、土地が約95%少なくて済む」という。さらに、「牛肉から作られる従来のバーガーと比べて、温室効果ガスの排出が約87%少ない」とのことだ。
非営利団体「グッド・フード・インスティチュート(GFI)」が2018年に発表したデータによると、植物由来の代用肉市場はアメリカで「劇的な成長」を遂げている。2018年9月のデータによれば、植物由来の食品市場は37億ドル(約4133億円)規模に拡大している。植物由来肉の販売だけでも、2018年の成長率は23%だったという。
シカゴの市場リサーチ企業「Arizton」は、アメリカの植物由来肉の市場は2024年に30億ドル(約3350億円)規模まで成長すると予測している。
インポッシブル・フードは2019年1月、コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)で、品質を向上させた「バーガー2.0バージョン」を盛大に披露した。新しい代用牛肉は、「おいしさも、肉汁も、栄養もアップしている」ほか、2016年に発売開始されたオリジナルよりも、ナトリウム含有量が30%、飽和脂肪含有量が40%少ない。
クエストラブのチーズステーキは、インポッシブル・ミートの2.0バージョンで作られる。
クエストラブは、アメリカ各地に足を運ぶなかで、「高級レストランやフードトラック、空港の売店」などさまざまな場所で、ふるさとフィラデルフィアの名物であるチーズステーキを見かけることに気がついたと話す。フィラデルフィアの名物料理を変身させようとする彼の試みに、植物由来肉への消費者の関心の高まりが追い風になると期待している。
「フィラデルフィア生まれの人間として、私はもちろん、おいしいチーズステーキに誇りを感じている」とクエストラブは述べる。「私はチームと一緒に、インポッシブル・ミートを使ったレシピを開発してきた。すべてのチーズステーキ好きにとって、おいしくて持続可能な代用食品になることを願っている」