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日本人が知らないエストニアのいま


とはいえ、これからはフェイスブック中心のコミュニティから脱却し、独自のプラットフォームに移行することも検討しているという。

「フェイスブックはタイムラインがフローで流れてしまうため、ナレッジのストックが中々できず、同じ質問が繰り返されてしまう。だから、情報をストックしながらe-Residency企業同士のマッチングを促進できるようなプラットフォームも並行して検討しているんだ。ノマドワーカーたちは、オンラインでの活動に慣れている上、情報をシェアしてくれる人が多い。だから、現状の1:nからの構造から脱却し、n:nの構造にすることで、より活発な情報の交換を促したいんだ」

OSを提供する政府 ソフトウェアを提供する民間

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これら一連の考え方は、e-Residencyプログラム、そしてエストニア政府自身が「政府はOSとしての機能を提供することに注力する」という発想に由来している。例えば、e-Residencyチームそのものが銀行としての機能を提供することはせず、民間の銀行と提携しながらサービスを提供している。

アダムはこう説明する。「もし我々政府が銀行サービスを提供するとなると、最も厳格なビジネスポリシーを持たなければならず、ユーザーにとっての利便性も下がってしまう。だからこそ、e-Residencyとしてはプラットフォーム(OS)を整備することに集中し、その上のコンテンツ(ソフトウェア)の提供はパートナー企業に任せているんだ」

一方で、民間が対応できないことを政府がカバーできるのも、同国の特徴だ。

最近では法改正によって、e-Residency企業の銀行口座として、エストニア国内の金融機関のみならず、EU域内の全ての金融機関と連携することが可能になった。その背景には、そもそもエストニアの銀行だけでは全てのe-Residentのニーズに応えきれず、より多様なオプションが求められていたことが挙げられる。

国内銀行が対応できない分を、「欧州域内の金融機関」という多様なオプションを制度改定によって政府が提示し、根本的な課題を解消した同国の柔軟さは、見事と言えるだろう。

民間企業だけではない。e-Residencyの応募者に対して犯罪歴などのチェックをかけるのは、エストニア警察・国境警備隊。また、法人を登記した起業家に対しては、税務局がチェックをかける形になる。このように、e-Residencyプログラムは、官民の様々な組織と連携することで初めて成り立つのだ。同チームに、パートナシップを構築・促進するための専門チームが設置されていることも納得だ。

民間出身者をメンバーとして巻き込みながら多彩なマーケティング戦略を展開し、民間企業が対応しきれないことを、政府機関が連携しながら対応するエストニア。その官民の結束力こそが、同国の強みなのかもしれない。

連載:日本人が知らないエストニアのいま
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文=斎藤アレックス剛太

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