現在、拠点のロンドンから12年ぶりに凱旋帰国し、表参道のギャラリーで白熊をモチーフにした「Byaku」を展示中の彼女に、創作へのパッションについて聴いた。
2018年タイのバンコクで発表した「Shiro」は全長32メートルもある大きな作品だ(courtesy of Solo Kojima)
──小島さんが手がけている3Dの「切り絵彫刻」とはどんなものでしょうか?
光と影を計算しながら、フレームに入れずに、立体的に展示する切り絵のことです。5歳で切り絵を始めた頃は、切ってから台紙に貼るという伝統的な方法でやっていましたが、切り絵にしかできない表現を探っているうちに、フレームを取ってしまったらもっと面白くなるかもと思いたち、ピンで止めたり、立体的に糸で釣ったりする今のスタイルになりました。
切り絵のルールは、「1枚」の紙から切り出されていること。
絵画はたくさんの色を使って描きますが、切り絵の場合は「1枚1色」というルールのなかで、どうやって陰影をつけて立体感を出すかを考えていくもの。これは一見「制限」のようにも思えますが、実はその表現方法は「無限」です。
だから、影の役割はとても重要。白熊をモチーフにした「Byaku」は、上から光を当てると“波紋”の影が浮かび上がるように計算して切り抜きました。その波紋のなかに、白熊が好きな食べ物のモチーフをこっそり入れ込んだりしながら。その影の波紋の効果で、少し離れたところから眺めると、白熊が水の中を泳いでいるように見えるはず。
また、展示会場によって、空気感や光の入り方が違うので、同じ作品でも毎回毎日違ったものに見えるのも好きなところです。
白熊をモチーフにした「Byaku」(courtesy of Solo Kojima)
──作品には動物をモチーフにしたものが多いようですが、どんな瞬間にインスパイアされるのでしょうか?
動物というよりも、最初は動きの美しさに魅せられることが多いですね。例えば、コーヒーからゆらゆらと絡み合う曲線になって昇り立つ湯気もそう。その美しさをみんなに伝えたいと思うことが制作の動機になります。
もちろん動物も大好きですよ。命あるものは好きです。動物をモチーフにする場合には、何日も動物園に通って、何時間も動物たちと一緒に過ごし、彼らの性質や体質を知って、何枚もスケッチをして。この関節がこう動くからこんなフォルムになるんだ、なんて気づいたりしながら、立体にした時の姿を計算して下絵を描いていきます。
どんな動物を題材にするとしても、その対象を心から100%好きにならないとつくり始めることはありません。つくりながら好きになる、ということはなくて、好きという気持ちが満タンになってから取り掛からないと作品に愛情が持てなくなってしまうんです。
切り絵には、特注の和紙を使います。和紙は時間が経つにつれて、人間と同じように、色や質感が変化していくものが多いので、命あるものを製作するのがぴったり。「Byaku」に使った和紙も、時間が経つにしたがって本物の白熊と同じように、クリームがかったものに変化していくんです。人間と同じように肌の質感や見かけ、色が少しずつ変わっていくのは、作品が生きている感じがしてすごく好き。