次世代ライフスタイル アドレスホッピングが生み出す「移動性信用経済」

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テクノロジーの進歩によって、ワークプレイスの多様性がうまれ、都市部と地方、あるいは国外との二拠点生活なども進んでいる今日。しかし、さらにモビリティーが高く、国内外を移動しながら生活する「アドレスホッピング」という新たなライフスタイルが日本でも醸成されはじめている。

今回、”アドレスホッパー"コミュニティのいちファウンダーである筆者が、その新たなライフスタイルの姿と社会へのインパクトについて紹介する。

世界中に無数の”イエ”をもつ


インド・コルカタのエアビーアンドビーホストの自宅にて

「賃貸 vs 持ち家」の議論がしばしばなされているが、アドレスホッピングが第三の選択肢として定着する日もそう遠くはないかもしれない。アドレスホッピングとは、一つの拠点に留まらずに、国内外をゲストハウスやホテル、旅館、エアビーアンドビーなどを使い、移動の柔軟性を持ちつつ生活することをいう。

人間が生まれながらに持つ安全欲求の要素を満たす、安心してくつろげる”イエ”という空間。それは、いまや唯一無二の固定の家でなく、世界中のどの街でも持つことができる。

エアビーアンドビーを使えば、バスク地方の村でスペインのおばあちゃん家に暮らすような体験ができるし、函館のゲストハウスHakoBAでは共有ダイナーでイギリス人ファミリーと偶然W杯のイギリス代表試合を一緒に観戦することもできる。テクノロジーの進歩と、コミュニティ思想を持った宿というハード面の充実により、安心安全はもちろん、どこにでも居場所=イエをもつことが可能になったのだ。

オフライン移動が価値ある情報を運ぶ



今は、グーグル検索をすれば、世界中のあらゆる情報にアクセスできる便利な世の中だ。しかし今こそ、かつて若狭湾から京都までの鯖街道を通じて、外国文化が京都へ伝わり、反対に京都の雅な文化が若狭へ伝播したように、人の移動を介した情報ネットワークが重要である。

情報にあふれている中で、直接、特に移動する中で出会った一定の信頼関係をもった者同士が共有する情報ほど貴重なものはないだろう。移動生活をおくるアドレスホッパーは、その土地の人から得る一次情報の機会に恵まれ、さらにそれを運ぶ媒介としての機能を持つのだ。

移動文化が地方に新たな流れを



人口の極端な都市集中化が進む日本社会。地方自治体は移住のハードルを下げるために、まずは関係人口増加を図ろうとしている。

アドレスホッピングは、まさにこれを促進し得るライフスタイルだ。都会か地方かではなく、シームレスに移動生活をする人が増えるほど、さまざまな地域に人が訪れ、生きた情報とお金が落ちていく。まだまだ新たな経済圏とは程遠い存在だが、少なくとも能動的に移動してきた人とその土地・土地の人との関係は中長期で続く。何かを作って人を呼ぶのではなく、その土地の人や文化がアドレスホッパーを呼び寄せる、それはサステイナブルな流れである。

まずは人が訪れることで、生きた情報が循環する。その中で、移動生活をするアドレスホッパーが、あるいは彼らの周囲の人々が興味を持って移住するかもしれない。

移住という一つの解がある中で、移動による人・情報・お金の循環を生み出すアドレスホッピングもまた、別の地域活性化の解となり得るだろう。

移動とコミュニティからの信用


大館市のみなさんとアドレスホッパーでの夕食

移動を繰り返す最大の醍醐味は、コミュニティへのダイブである。モノやコトを”消費する”旅ではなく、そこで”暮らす”ことで得られる体験と学び。

私自身、直近2年間で30以上の都道府県、約20カ国をホッピングしてきた。ただ数は全く重要ではない。同じ場所に何度も行ったこともある。最も大切にしているのはその深度。その土地、人との関わりの深さである。

秋田県・大館市に行った際には、地域の人々の懐の深さに驚かされた。温泉に恵まれたこのまちでは、湯に浸かっていれば自然と現地の方との会話が弾む。秋田犬に会えるふるさわおんせんでは、再訪した際に女将の小林さんが覚えていて下さり、温かく迎えてくれた。3カ月前に日帰り温泉利用で行っただけにも関わらず。

暮らしながら移動するアドレスホッピングは地域コミュニティへアクセスしやすい。そして、そこで得られた信頼関係は非常に大きな財産となる。縁もゆかりもなかった大館も、そこで出会った地域の人々との関係により、今では時折帰りたくなるふるさとになっている。



多拠点生活の序章が始まった2019年。アドレスホッパーとして重要なことは、土地とそこの人への想いだ。移動性に、コミュニティとの関わりが加わってはじめてアドレスホッピングの真価が発揮される。

特定の住居を構えている人にも、時折知らない土地に一定期間移動してみることを強く勧めたい。新たな発想を得られるだけでなく、自らの暮らしを見つめ直すきっかけになるはずだ。

文=Matt Masui

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