ビジネス

2019.04.04

自分らしさを貫け!一銭も調達しない「逆張り」ファッションブランド

ヴィンヤード・ヴァインズ創業者 シェップ・マレー(左)、イアン・マレー(右)


「自分たちで株式100%を所有しているため、彼らには好きなように事業を進められる敏捷性と機動性があります」と、NPDグループのマーシャルは分析する。「そのおかげで、本来のブランドらしさを維持できるのです。外部からの干渉がありませんから」。
 
実際、外部からの干渉を避けることは、マレー兄弟が同社を立ち上げた理由の一つだった。

2人が最初に作ったのはネクタイだが、20年前はシリコンバレー流のカジュアルな服装が東へ広がっていた時期で、ネクタイビジネスを始めるタイミングとしては最悪に見えた。

しかし、マレー兄弟の考えは逆張り的な見解に落ち着いた。確かに男性がネクタイを締める機会は減っているが、締めるときは主張のあるネクタイを求めるようになっている、と。それに、ネクタイは利益率が高く、複数のサイズを用意する必要がなかった。
 
彼らがチャンスをつかんだのは2002年のこと。保険会社のアフラックから、同社のアヒルのマスコットをあしらったカスタムデザインのネクタイ1万本、40万ドル分を受注したのだ。04年になると、ネクタイ以外にも事業を拡大し、05年にはマーサズ・ヴィンヤードに初の独立型店舗を開いた。店舗の開設はその後も続いた。
 
金融危機が起こると、売り上げは35%落ち込み、注文を取り消す顧客や支払いができない顧客が出たが、マレー兄弟は生き残りをかけて効率化を進めた。在庫やデータ管理のシステムに資金を投じ、供給契約を再交渉し、物流センターを建設し、好立地の路面店を安く手に入れていった。

「不況がきっかけで、自前の店舗に投資するようになりました」とイアンは語る。このおかげで、同社は景気回復の波に乗る準備ができたという。
 
マレー兄弟は、現在の小売業界の混乱を同様のチャンスと捉えている。逆張り的な実店舗展開の推進に加え、ネット販売でも新たな試みに挑戦。利益率の引き上げとブランドの特別感の維持を狙い、17年、割引や販促キャンペーンの大半をやめたのだ。

この戦略により売り上げの伸びは鈍化したが、ヴィンヤード・ヴァインズには株主も投資家もいないため、彼らは実験を続けられる。それどころか、海外進出やブランド拡張も検討している。リゾート風の家具やビーチスタイルのレストラン、釣り船チャーター事業などだ。

「小売業界で今起きているのは、進化ではありません」とシェップは言う。「革命なんです」。


シェップ・マレー(左)、イアン・マレー(右)◎2人はコネチカット州グリニッジで育ち、マサチューセッツ州マーサズ・ヴィンヤード島で夏を過ごした。企業勤めを経て1998年、ヴィンヤード・ヴァインズを共同創業した。

文=スティーブン・ベルトーニ 写真=ジャメル・トッピン 翻訳=木村理恵

この記事は 「Forbes JAPAN プリンシプル・カンパニー」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

ForbesBrandVoice

人気記事