ビジネス

2019.04.04

自分らしさを貫け!一銭も調達しない「逆張り」ファッションブランド

ヴィンヤード・ヴァインズ創業者 シェップ・マレー(左)、イアン・マレー(右)

ファストファッションの台頭、百貨店の衰退、ネットショッピングの急拡大、熾烈な値下げ競争──。多くの会社が変化の波にさらわれるなか、独自の航路を走り続けているアパレルブランドがある。


小売業の凋落とカジュアルウェアの台頭をよそに、シェップとイアンのマレー兄弟が立ち上げたヴィンヤード・ヴァインズは、この20年間、大きな躍進を遂げてきた。1998年に創業したこのアパレルブランドは、現在、従業員2800人、95店舗を抱え、売り上げは推定5億ドル(約550億円)に達している。

見事なのは、マレー兄弟が会社を100%自分たちで所有したまま規模を拡大してのけた点だ。その企業価値については3年前、ゴールドマン・サックスが10億ドル(約1100億円)の評価をつけたと報じられている。
 
マレー兄弟は、「いい気分になれるファッション」を提供することで、このブランドを築き上げた。会社の代名詞であるクジラのロゴが入ったカラフルなネクタイやシャツは、クラシックなデザインだが肩の力が抜けていて、プレッピーだが堅苦しくない。

しかも、最先端の流行を取り入れたり、有名人モデルを広告塔に起用したり、ファッションショーを開いたりすることは避けている。ビーチのバーに出かけて楽しむことが大好きな彼らは、他のブランドに追随するのでなく、自分たちらしさをひたすら追求しているのだ。

「うちの商品は、自分がヴィンヤード・ヴァインズのコミュニティの一員だと示すユニフォームのようなものなんです」とイアンは語る。「僕らは、アパレル事業を手がけているとは思っていません。これはブランド事業なんです」。
 
同社は大手のチェーン店やオンライン小売業者も敬遠し、自前の独立型店舗やウェブサイトに加え、リゾート、会員制スポーツ施設のグッズ販売店、大学の書店といった専門店で商品を販売している。

コネチカット州スタンフォードの本社には店舗のモデルルームがあり、マレー兄弟はそこでこだわりの限りを尽くしている。棚に並べる衣類から壁の装飾、果てはスピーカーから流れる音楽にまで至り、店舗ごとにカスタムプレイリストを作っているほどだ。

「アップルがそうであるように、ライフスタイルのブランドなのです。つまり、ヴィンヤード・ヴァインズの服を買うと、他の商品もすべてそろえたくなる」。調査会社NPDグループの主任小売りアナリスト、マーシャル・コーエンはこう指摘する。

ネクタイから始まった「逆張り」展開

他の小売業者が実店舗を閉鎖し、ネット販売に力を入れる中で、ヴィンヤード・ヴァインズは従来型店舗の開設をさらに推し進めている。「自分の街に店舗がなければ、人はヴィンヤード・ヴァインズのことを思い出さないでしょう」とシェップ。「一つの地域で小売店を開店すると、オンライン販売事業が劇的に伸びるんです」
 
ネット注文から収集したデータは、実店舗の開設候補地域を示す分布図作りに役立てられ、それが内陸のセントルイスやカンザスシティといった都市での成功につながっている。
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文=スティーブン・ベルトーニ 写真=ジャメル・トッピン 翻訳=木村理恵

この記事は 「Forbes JAPAN プリンシプル・カンパニー」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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