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2019.04.03

仕事は「憧れ」で選ぶ 親は子の良きアドバイザーになれ

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この30年間、政府も民間もベンチャースピリットを喧伝し、リスクマネーの重要性を叫び続けている。起業家育成、新規公開、ベンチャーファンドやプライベートエクイティ、さらにはユニコーン、クラウド・ファンディング等々の言葉が乱舞したのが平成年間である。

しかし、事態は変わらない。相変わらずリスク回避の安全志向が、日本社会全体に根雪のように残っている。起業家やベンチャー経営者は、若者の憧れの職業に上がってこない。ゲームクリエーターやユーチューバーにはいくが、そこまでだ。

日本には残念ながら、ビル・ゲイツ、スティーブ・ジョブズやジェフ・ベゾス、ザッカーバーグのような憧れの対象が見当たらないのである。否、彼らのような人材は存在していても若い人たちは知らない。若者たちの起業家イメージは「大儲けをして、綺麗なタレントと仲良くなれる人」である。

つまり、若い世代にとっての日本の著名な起業家は、ビジネス人や経済人ではなく、芸能人やタレントの範疇なのである。

芸能界のような華やかな世界に憧れるのは大いに結構。でも同時に斬新でエッジの効いた経営者や経済人への夢も持ってもらいたい。見た目は派手でも地道な努力を欠かせないのが起業家だ。親たちはそういう側面をこそ、子供たちに伝えてほしい。

初場所初日から3連敗を喫した稀勢の里。だが、引退の弁は潔かった。不本意な大怪我を抱えながら、憧れた職に全力を尽くした姿には、相撲ファンならずとも打たれたと思う。

思えば稀勢の里改め荒磯親方はまだ32歳である。ベンチャー企業を立ち上げて、起業家を若者たちの憧れる職業にランクアップさせてもらえないものだろうか。


川村雄介◎1953年、神奈川県生まれ。大和証券入社、シンジケート部長などを経て長崎大学経済学部教授に。現職は大和総研副理事長。クールジャパン機構社外取締役、南開大学客員教授を兼務。政府審議会委員も多数兼任。『最新 証券市場』など著書多数。

文=川村雄介

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