不屈の精神に時代が追いつく
だが、クルトマンシュは不屈だった。建築業界がいずれITを求めるようになると確信していたのだ。プロコアはその日のために備えた。情勢はゆっくりとだが、次第に彼らに有利な方へと傾く。
建築会社は仕事を再開し、ソフトウェアを使うのも仕事の一部と考える若い労働者が増えていった。10年にはアップルがiPadをリリースし、建設現場でしっかりしたデバイスが使えるようになった。Wi-Fiにアクセスできる現場も次第に増加した。
立ち上げから10年を経ると、成長曲線は急勾配になり始めた。建設業界屈指の大手企業であるモーテンソンなど、顧客に大手が名を連ねるようになり、シリコンバレーもついに彼らに目を留めた。15年以降、プロコアは1億8000万ドル(約198億円)の資金を調達。16年後半には企業評価額がおよそ10億ドル(約1100億円)に達した。
建設業界のITは注目の的となり、大小の挑戦者が現れているが、長い歳月を生き延びてきた甲斐あって、プロコアは競合よりも一歩先行しているように見える。「プロコアの規模や戦略と肩を並べられるような挑戦者がそれほど何社も存在するとは思えない」とは、コーエン社のアナリスト、デリック・ウッドの弁だ。
今や1200人の従業員を抱え、売り上げは2億ドル(約220億円)に迫るプロコアの株式上場申請は、19年前半になりそうだと言われている。プロコアは、すでに未来の上場企業としてふるまっているし、ウォール街が“醜いアヒルの子のようなスタートアップ転じてクラウドの旗頭”となった会社を初めて精査する時に備えている。
クルトマンシュは、これまで頑張ってきた以上、ひとたび上場したら「ハンマーを置く(=中途半端なところでやめる)」つもりは毛頭ないと語る。「我々はまだ初期の段階にあると信じている。プロコアで建築業界のすべての情報データを一元化したいんだ、世界的にね」。ビジョンがどれほど壮大なものになろうとも基礎は変わらない。
「私は骨を見つけた犬さ」とプロコアのCEOは言う。「歩き去ることなどできない」。
トゥーイー・クルトマンシュ◎カリフォルニア州サンディエゴ出身。建築に熱中し学生時代から大工として活躍。その後、ソフトウェア技術者に転身し、IT企業で重役を務めた。2002年、プロコア・テクノロジーズを創業した。