ビジネス

2019.04.02

順風満帆だったイギリスでのビジネスに一瞬吹いた「不安のすきま風」

展示会場近くのロンドン・タワー・ブリッジ

人工知能ベンチャーを2度目の起業に据えた僕は、主戦場のアメリカからイギリスへとビジネス戦線を拡大している。第1回でも書いた通り、2月下旬、ロンドンに降り立った僕は高揚感に満たされていた。

しかし、イギリスでのビジネス的な肌触りはアメリカと若干異なり、一瞬戸惑ったのも事実だ。今回はそこにフォーカスしたい。

2月26日、僕は猛烈なやる気とともに目を覚ますと、ホテルの1階に降りて無料のコーヒーをがぶ飲みし、早速、展示会場に向かった。なぜこんなにやる気に満ち溢れているのだろう。どこまでも頭が冴え、極めてはっきりとした意識がある中、全身にグルグルと血液が流れている気がする。この日、自分でも抑えきれないほどの熱量が、僕にはあった。

朝9時から始まったオープニング・セッションに参加すると、あとはホールに出て、イギリスの水道会社の役員たちと話しまくる。「僕たちはフラクタという、アメリカのソフトウェア会社です。人工知能を使って、上水道配管の劣化部位を特定することができます。従来型の方法と比較すると精度が高いばかりではなく、道路を掘り起こす必要もないため、費用も安いです。もしよければ、イギリスで一緒に実証実験のパートナーになってもらえませんか?」。こんな調子だ。

「それは素晴らしい。ぜひうちの水道会社の配管データを使って、実証実験に参加させてもらいたいです」。水道会社の役員が答える。イギリスはアメリカと同じく、配管が非常に古くなっており、また水道管からの水漏れが非常に多い、漏水大国だ。間違いなく市場があるとは思っていたが、話しかける水道会社のイノベーション担当役員は、みな一様にポジティブな返答を返してくれる。

要は、困っているのだ。今年1月の終わりに、僕たちフラクタは日本の総合商社である丸紅と、イギリスを中心とした欧州市場に参入するための共同事業契約にサインをした。当時、水道事業担当の課長だった寺山さん、現課長の畠中さん、課員の山室さん、またその水道事業を統括する事業部の部長である千葉さんとは、かなり長い間、突っ込んだ議論をさせてもらってきた。

左から、畠中さん、著者、山室さん、ヒロ、マイク
左から、畠中さん、著者、山室さん、ヒロ、マイク

僕たちは欧州の水道事業に関する知見はなく、一方で丸紅はポルトガル(ヨーロッパ)や、チリ(南米)を中心に世界中で水道事業を展開している実績があり、僕たちは、アメリカや日本以外の市場への参入に関して、丸紅の持つネットワークだけではなく、丸紅が抱える熱き水道事業の商社マンたちと一緒に市場を開拓してみたいと思っていたのだ。

ロンドンの展示会に、まずは丸紅の山室さんが合流した。一緒にイギリスの水道会社の役員たちと話す。とにかく人に会っては、「実証実験を一緒にやりませんか?」と話をする。ポジティブな返答が返ってくる。この繰り返しだった。僕たちはスペイン料理屋さんで初日の反省会を行うと、ほっと胸をなでおろした。もちろん、この初日が始まる前は、僕たちフラクタも、丸紅の皆も、新しい市場に入るということ、自分たちのアクションに対して、ある種の不安があった。

翌2月27日は、朝から展示会の会場とは車で20分ほど離れたところにあるカフェで、イギリスのある水道会社の人間と待ち合わせをしていた。僕はカフェに到着するなり、パソコンを開けて、フラクタのソフトウェアのデモ画面を見せながら、自分たちがアメリカで何を作ったのか、どうしてこれがそんなにすごいことなのか、これをイギリスに持ってくるとイギリスの水道会社にどのようなメリットがもたらされるのか、どうしてこのタイミングで僕たちと実証実験をやったほうが良いのか……とにかくまくし立てる。イギリスに滞在できる時間は3日間しかない。短い時間の中で、何人かの人を説得してアメリカに帰らなければならない。
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撮影=加藤崇

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