エミリー・ブラントに手渡しした桜の和傘。「メリー・ポピンズ リターンズ」の衣装の色合いから着想を得た。
一般向けに限定販売している「桜和傘」。
河合の屋号である「仐日和」のアカウントで、エミリー本人に桜の和傘を渡したことを写真付きでツイートすると、「素敵」や「丁寧な作り」と、一気に拡散された。3月末時点で2万リツイート、「いいね」の数は4.9万にも及んでいる。
河合は、エミリーへ贈ったものとは異なる色使いの「桜和傘」を来年3月までに計15本限定で特注を受けることに。20万円(税別)と高価な和傘(日傘)だが、すでに14本の予約があった。記念すべき最初の1本目を買ったのは、結婚式の前撮りのために「桜型の和傘」を探していた30歳の女性だという。
色合いは前回よりも「日本の桜らしく色合いを薄くし、ほんのりピンク色のグラデーションにした」という。河合自身が白い美濃和紙を染めて、色の濃淡を表した。表から見るとより白っぽく、裏側から見ると日が差してピンクのグラデーションがよく見え、違った表情を楽しめる。
和傘職人の河合幹子
河合は31歳の若手職人だ。実は、4年前まで簿記の資格を生かして税理士事務所の職員として働いていた。そんな時、創業100年以上和傘の製造を手掛ける叔父から声をかけられ、和傘作りを手伝うことになったのだ。だが、母が体調を崩したのを機に両親が営む新聞販売店を手伝うため、1年半ほどで退社することに。2016年に個人事業を立ち上げ、約2年間は新聞配達と和傘づくりを掛け持ちしていた。現在は和傘の制作に打ち込み、月に20本弱の和傘を制作している。
18年夏には、河合を後押しするように、岐阜和傘などを販売する「長良川てしごと町家 CASA」がオープンした。風情ある町家が立ち並ぶ岐阜市の川原町エリア。1300年以上続くとされる長良川鵜飼の開催場所のすぐ近くで、国内外の観光客から注目されている場所だ。近年、このエリアで盛り上がる「アンティークキモノ」の着付けレンタルサービスや、長良川流域の各地で2カ月間様々な体験が楽しめる毎年恒例の「長良川おんぱく」などを手掛けるNPO法人「ORGAN」(蒲勇介理事長)が火付け役だ。
クラウドファンディングで「CASA」について「日本一の和傘産地の逆襲!築100年の町家を伝統工芸体験拠点にしたい」と呼び掛けると、187人から300万円以上の支援金が集まった。
「CASA」には河合が制作した桜和傘の展示もしており、実際に見ることができる。また来年以降も桜和傘の注文を受けるつもりだ。
河合には2つの思いがある。まずは「岐阜和傘をブランドとして認知を広げ、国内と海外にアピールしたい」。そして「和傘を制作する上で材料の確保と部品の供給などの課題があるため、その環境づくりに繋げたい」。
「CASA」店内では、和傘のほか、岐阜提灯やそこからインスピレーションを受けて手掛けたイサムノグチの「AKARI」も販売している。折しも岐阜県は、2016年から3年連続で国際見本市ミラノ・サローネへの出展などを通じて、美濃和紙や関の刃物、飛騨高山の木工家具など「岐阜ブランド」の海外への発信に力を入れて来た。今後、「岐阜和傘」が世界で注目される日も近いかもしれない。
「長良川てしごと町家CASA」の店内。岐阜和傘やイサム・ノグチの提灯を販売している。