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マイクロソフトは18年11月末にアップルやアマゾンを抜き去り、時価総額8129億ドルで世界一の座に返り咲いた。19年中には1兆ドルに達するだろうというのが、アナリストのコンセンサスになっている。

その立役者はほぼマイクロソフト一筋のキャリアをおくってきたナデラだ。彼は14年2月にスティーブ・バルマーの後任のCEOに就任すると、直ちに停滞を打破し始めた。技術畑出身のナデラは、マイクロソフトをシンプルなコンセプトに集中させたいと話す。すなわち他社と敵対することなく、ステークホルダーと共に歩んでいく「安定した成長」である。

「ようやく人々が『大事なのは稼いだ金額だけじゃない。もっと自分を取り巻く世界の状況に目を向けよう』と言い始めた。それを聞くと、我々は最良の時を過ごしているのだと感じられるんだ」と、ナデラは言う。

iPhoneとの関わり方からもナデラの思うところが見て取れる。CEO就任から数週間後、マイクロソフトはクラウドサービスのアジュールの提供を開始し、iOS向けのアプリを作る開発者たちの利便性を向上させた。

さらに翌15年のあるイベントでは、ナデラは壇上でiPhoneを使用した。10年に遅きに失したタイミングでウィンドウズ・フォンを出し、13年にはノキアのモバイル部門を買収して70億ドル以上をふいにした会社としては、考えられないことだ。

見えないところでも、ナデラはライバル企業を敵国のように扱うマイクロソフトの好戦的な企業文化の改革に取り組んだ。

マイクロソフトはドル箱だったウィンドウズの成功体験に縛られ、アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)に代表されるクラウド・ブームや、セールスフォースのようなサブスクリプション(継続従量課金)方式のソフトウェア・ビジネスに乗り遅れた。

1988年にインドから米国に移住したナデラは、CEOになる前から自社のクラウドビジネスの立ちあげを主導していた。彼は迅速に新たな幹部を配置すると共に、オープンソース型のライバル、リナックスとの間の障壁を打ち壊した。

ケンカっ早い前任者のスティーブ・バルマーが「癌」と呼んで激しく敵対していたリナックスを、ナデラとクラウド部門の新任トップのスコット・ガスリーはアジュールのシステム内に迎え入れたのだ。今ではマイクロソフトのクラウド上で動くコンピュータ・システムの半数で、リナックスが採用されている。数年前では考えられなかったことだ。

しかし、これでナデラに慢心が生じるかというとけっしてそんなことはない。

「我々が成功を手にした時、昔のような傲慢さが顔をのぞかせた。だから『そういうのは捨てよう』と話したんだ」

クラウドビジネスでの年間売り上げが270億ドルと、アジュールの100億ドルと比べて大きく先行するアマゾンのAWSとの差を詰めるためにマイクロソフトは自社の取引業者に目を向けた。その結果、今や販売代理店は、主要な顧客との契約がアジュールの利用増につながった場合には報酬を手にすることができるのだ。

「私たちは皆、彼らがしていることに驚いているんだ」と、データ保存用ソフトウェアのメーカー「スノーフレーク」のボブ・マグリアCEOは言う。何を隠そうマグリアは23年間マイクロソフトに勤めた後に、バルマーがトップだった時期に退社した人物だ。

文=アレックス・コンラッド 写真=ジャメル・トッピン 翻訳=町田敦夫

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