キャリア・教育

2019.04.02 07:00

米国で最も成功した日本人起業家が語る「1万1700年スケール起業計画」のススメ


そのような時代の中で、「こうあればよい」という未来は論じにくい。予想しなかったファクターがどんどん入ってきてしまう。「分からない」世界で生きていくには、今までの経験則ではうまくいかないかもしれません。勇気、ビジョン、直観を持った人物が非常に重要になってくると思います。

イーロン・マスクのような起業家は宇宙を目指していますが、宇宙に行けるのはほんの一握りの人たちだけですよね? 大多数の人々は、地球と共に生きます。変化する地球と共存する道を探らなければなりません。

講義を持つ京都大学では「人新世における哲学」も扱いたいと思っています。悲観的になりがちな考え方ですが、なるべく悲観的にならず論じたい。動物は未来が見えません。人間は生物が誕生して以来、初めて地質学的エポックが変わることが見えるのです。スケールを変えて考えることが重要だと考えています。

フェニクシーでのメンバーの選抜に関しては、経済インパクト、社会インパクトに加えて、地球のことを考える環境インパクトも合わせて「トリプルボトムライン」を考えています。少なくともそれらにマイナスの影響を与えない。そういったことをムーブメントにしたいと思っています。

──「フェニクシー」の仕組みについて教えてください。

「大企業発ベンチャー」がコンセプトです。1年に2ターム、大企業から1社1人選抜されたメンバーが京都で4カ月住居を共にし、ソーシャル・ベンチャーを立ち上げます。参加企業には1社1億円ファンドにも出資してもらい、ソーシャル・ベンチャーに投資していきます。

昨年からトップ営業を始めましたが、非常に好評で、第一期には東京海上ホールディングス、富士フイルム、ダイキン、味の素、オムロン、NISSHA、三菱ケミカルホールディングスといった企業のメンバーが参加します。CEOにはアールテック・ウエノ時代から共に経営に携わってきた信頼できるメンバーである橋寺由紀子が就任しました。

京都を選んだのは、自身が学生時代に過ごした場所というのもあるのですが、40年ぶりに帰り、京都という街は歴史的、文化的にエコシステムがあると感じました。京都大学には「自重自敬」、まずは己を知れという精神があります。人が作った価値観が正しいと思って進むのではなく、自分自身で探し、会得しよう、という価値観です。「若い人には優しいが、教えない」。個人の才能を伸ばすには最も良い環境だと思いました。

──なぜ「大企業」に注目されたのでしょうか。

元々、日本にハルシオン・モデルを持っていきたいというアイデアはありましたが、ここ2年程日本とアメリカを行ったり来たりする中で、どのような方法が良いか考えてきました。

アメリカと比べると、やはり日本は圧倒的に起業家の数、大きさに欠けます。一部の人たちが東京で起業をし、シリコンバレーに挑戦していることはとても良いことだと思いますが、その一部の人たちの数が増えるとは私には思えませんでした。

多くの才能が大企業、大学、組織に行ってしまい、そこで眠っていると感じたのです。優秀な人は優秀な人が多くいる部署に入れられ、24~35歳というアメリカで言えば最も起業する年齢で、何のチャレンジもできない。この年齢で、優秀な人を困難な環境に置くことが大切だと考えています。

久能祐子(中央)と「ハルシオン・インキュベーター」の投資家、起業家たち。(Photograph by Ogata)
久能祐子(中央)と「ハルシオン・インキュベーター」の投資家、起業家たち。(Photograph by Ogata)
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構成=岩坪文子 イラストレーション=Luke Waller

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