社会起業家としては、2000年に才能ある個人を支援するS&R財団を設立。2014年秋には社会起業家に特化した「ハルシオン・インキュベーター」をワシントンD.Cでスタートし、17年に公共財団としてスピンオフさせた。
科学者であり連続起業家、投資家でもある久能氏は今、若い起業家には1万1700年ぶりの地質学的エポックの変化、人類の転換点を見据えた視野が必要だと語る。今年、京都で新たなインキュベーション事業をスタートさせる久能氏にその真意を聞くために、ワシントンD.Cを訪れた。
──Forbes JAPANでは2015年と2017年にインタビューさせていただきましたが、2017年にはS&R財団から「ハルシオン・インキュベーター」が公共財団としてスピンオフされました。現在注力されていることを教えてください。
大きく2つあります。科学者としての立脚点では、2012年に赤畑渉博士と共同創業し、ビジネスパートナーである上野隆司博士と共に創業当初から投資を続けてきたVLPセラピューティクスが今年から、マラリアの感染を防ぐワクチン候補薬の臨床試験をスタートさせます。5年間の成果が形になってきましたので、私にできることがあれば何でもしたいと思っています。
また30年以上前から中枢神経系の仕事をしたいと思っていましたが、ようやく時期が来て、赤畑博士と上野博士と共に、アルツハイマーや認知症といった問題の共同研究講座を京都大学ではじめることになりました。
もう一つ、社会起業家としては、「ハルシオン・インキュベーター」を2017年にスピンオフし、経営も人に任せて上手く行っていますので、ハルシオン・モデルを日本に持ち込む事業に昨年から着手し、今年(2019年)6月にいよいよ京都でインキュベーター「フェニクシー」をスタートさせます。
──久能博士が日本の若い起業家に求めることは?またフェニクシーではどのような基準でメンバーを選抜するのでしょうか。
今の時代は、先が読めない「不確実な時代」と言われていますが、経済環境だけでなく、地質学的には人新世(アントロポセン※編集部注)の時代が到来しており、約1万1700年続いた完新世の時代はすでに終わり、地球にかつての小惑星の衝突や火山の大噴火に匹敵するような変化が起こっているとの学説があります。
気候変動もその影響のひとつと言えますが、それだけではなく、1950年代からIT化、人口の都市への集中、世界の旅行者の数、海洋の酸性化、そういったものがエクスポネンシャル(指数関数)的に増大しています。
1万1700年ぶりに地質学的なエポックが変わります。簡単に言うと「人間が地球に影響を及ぼしてしまった」ということなのですが、少なくとも近代史200年余りの考え方は通用しない、人間と地球の関係を切り離して考えられない新たな世紀に入ったと言えます。