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──博士号取得後に山下さんは米国に行きました。

米国に行ったことは、私にとってコペルニクス的な大転換でした。博士号を日本でとった時はかなり辛かったです。閉塞感や研究以外の社会的プレッシャーがありました。日本にいた時は気づかなかったのですが、米国に来てから、そういったものに煩わされていたと気づきました。

米国は決して完璧な国だとは思いませんが、自分が移民になったことはとても良かったと思います。移民になると言葉も通じないですし、もちろん大変です。しかし、自分がよそ者になると、ステレオタイプの期待をされなくなります。私は何も期待されていない、ああしろ、こうしろ誰にも言われない。ものすごく自由になりました。それが良かったです。

研究について考える時も、重要なこと以外なことは考えなくて良くなりました。自分が生まれ育った国にとどまると、私は今までクラスでトップだったから、ちゃんと教授にならなくっちゃ、とか思うかもしれない。そうすると、研究テーマを考える時にもこの研究でいい雑誌に載せられて、履歴書が良くなって、教授職が取れるのか?と恐れがでてきてしまう。

でも、私は移民だったので教授になろうと思いませんでした。どうぜ外国人だし、自分の好きなことや興味を持ったことを突き詰めよう、という自由を与えてくれた気がします。

──山下さんが考える、「来てほしい、面白い」未来とはどんなものですか?

偏見のない世界です。皆に平等な機会が与えられる世界です。異質なものを排除する傾向は、人間の性(さが)というよりも、保身という「動物の性」だと思います。分からないものを受け入れることに必ずリスクは伴います。「動物の性」に従っていると、異質なものが排斥される世界は変わらないでしょう。偏見のない世界を作ろうとしたら、多くの人が学び、恐れを克服できないといけない。だから非常に難しいですね。

自分が捉われているものから解放されて、やりたいことができる時は本当に楽しいです。できるだけ多くの人にその楽しみを味わってほしいから、そういう世界が来て欲しいと思います。自分の好きなことを仕事にするのは、とても幸せなことですよね。

今は、偏見があるために自分が捉われてしまっている人がたくさんいると思います。例えば、女性は仕事をしなくていいよと言う人は、そこから満足を得ている部分はあると思います。僕の方がえらいんだ、と。でもその人も、それが不必要なプレッシャーになっていて、楽しくもない仕事をしているかもしれません。

偏見は諸刃の剣です。満足感が得られる部分があるから、しがみついてしまいますが、不必要な拘束をうけてしまう部分もある。それがなくなれば、みんなが幸せになるのではないでしょうか。

──「子育て」のフィロソフィーや習慣があれば教えてください。

14歳で中学校3年生の娘がいますが、基本は放置です。日本と同じように、アメリカでも幼少期からいい大学に行けるようにと様々な習い事や勉強をさせる、競争的な環境にいます。でも、それで何かできるようになる、というのは結局犬に芸を教えるのと一緒で、何かを達成できることにはならないと思います。何々ができるからいい大学に行ける、という風に生きていると、自分の好きなものを選べなくなってしまうと思うんです。

私も自分で選ばせてもらったので、これをしなさい、これを勉強しなさい、というのは言いませんでした。娘には小さい時から、「自分の好きなことをやって生きていくのが一番楽しいよ。そうじゃないと後がしんどくなるから、自分の好きなことが職業にできるように、自分の好きなことを探せるようにしなさい」とずっと言ってきました。

好きなことだったらなんでもできる、ということを学んで欲しかったのです。嫌いなことを辛い辛いと思いながらやっても、身につきません。「自分が苦にならない、努力できるところを探しなさい」と言ってきました。私自身がそういう人だからです。科学がなかったら、ベッドからも出てこないですね。娘は、それなりに強いパーソナリティになっていて、自分で決めて自分で勉強できる自律性が身についているようです。


山下由起子◎1971年生まれ。ミシガン大学生物学教授。ハワード・ヒューズ・メディカルインスティチュート研究員。京都大学で生物物理学の博士号取得後、2001年からスタンフォード大学に留学。専門は発生生物学。マッカーサー・フェローシップ(2011年)など多数の賞を受賞。現在は幹細胞から生殖細胞に研究範囲を広げ、多数の著名雑誌で研究成果の発表を続ける。

構成=成相通子

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