ビジネス

2019.03.27

「眠れる巨人」グーグルはブロックチェーンでも覇者になれるのか?

グーグル・クラウド シニア・デベロッパー・アドボケート アレン・デイ

1990年代の後半、グーグルは高速で精度が高く使い勝手の良いサーチエンジンを開発したことで、ウェブを一変させた。そして今、同じような状況がブロックチェーンにも起きている。


12月中旬にもかかわらず摂氏27度のシンガポール。41歳になるデータサイエンティストのアレン・デイは、何かがおかしいと感じていた。グーグルで自らが開発したツール群を駆使しながら彼は、イーサリアムのブロックチェーン上のAIが一斉に奇妙な動きを見せていることに気づいた。

イーサ(Ether)はビットコイン、リップル(XRP)に次いで世界第3位の暗号通貨で、時価総額は2018年に83%下落したものの、現在も約110億ドル(約1兆2180億円)を誇る。暗号通貨取引のトランザクション処理を支える分散型データベースであるブロックチェーンを覗いていたデイは、“膨大な数”の“自律型エージェント”が“自動化された方法”で資金を動かしているのを発見した。

そのようなAIを作成した犯人は特定できなかったが、彼は、内部で暗号通貨を取引させてイーサの価格を故意につり上げるエージェントの存在を疑った。

「単独で動く単一のエージェントではなかった」とデイは、グーグルのアジア・パシフィック本部で語る。「別のエージェントと結びつき、より大規模なグループ効果をもたらそうとしている」。

デイの正式な肩書は、グーグル・クラウドのシニア・デベロッパー・アドボケート。しかし彼は自分の役割を、グーグルのクラウド・コンピューティング・サービスの“カスタマー・ゼロ”と称している。ある時にはプロダクトがこの世に存在する以前に需要を先読みするのが仕事だという。

彼は「ブロックチェーンをよりアクセスしやすいものとすることが次の大きな課題だ」と考えている。20年前、グーグルはインターネットをより使いやすくすることで支持を(最終的には利益も)得た。そして次は、ブロックチェーンに注力することで大金が生まれるかもしれない。

18年、デイとオープンソース開発者による少人数のチームは、ビットコインとイーサリアムの全ブロックチェーン・データを、グーグルのビッグデータ分析プラットフォームであるビッグクエリ(BigQuery)へ取り込む作業を密かに始めた。外部開発者エフゲニー・メドヴェージェフの協力も得たデイは、取り込んだデータを検索するための高性能な一連のソフトウェアを作成した。

全く宣伝していなかったにもかかわらず、デイによるプロジェクトの噂は、暗号化に関わるプログラマーの間に瞬くうちに広がった。1年のうちに、ビットコインの価格変動予想から、イーサ所有者間の富の格差を分析するものまで、デイの新たなツールを利用した500以上のプロジェクトが立ち上がった。
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文=マイケル・デル・カスティリオ 写真=ムンシ・アハメド 翻訳=荒川伸次

この記事は 「Forbes JAPAN 地方から生まれる「アウトサイダー経済」」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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