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2019.03.25

イスラエルとのコラボで進む、日本のイノベーションの再生

Denis Linine / Shutterstock.com

1970年代から80年代にかけて、世界のイノベーションをリードした日本のエレクトロニクス企業は、今やその地位を追われつつある。ソニーや東芝、パナソニックらが家電市場を支配した後も、2004年頃までは液晶テレビ分野では日本メーカーが市場の支配的地位に立っていた。

しかし、2009年頃には韓国のサムスンやLGが液晶テレビ市場の覇権を握り、日本の大手家電メーカーの時価総額は2000年から2011年の間に、半分以下にまで減少した。

世界のミレニアル世代の消費者がアップル製品を買い求めるなかで、日本の家電メーカーの地位が大きく低下したことは明らかだ。日本は現在も世界第3位の経済大国ではあるが、帝国データバンクが2018年に実施した調査で、約3分の2の日本企業が後継者不足の問題に直面していることが明かされた。

この状況は、日本の中小企業の前途に重大なリスクが潜んでいることを示している。

日本の政府や大手企業の幹部らもこの問題を認識し、エレクトロニクス分野や金融、自動車メーカーや小売分野では海外への投資や買収を通じ、イノベーションを促進する動きが進んでいる。

日本が最大の関心を寄せる国の一つが、6000社以上のスタートアップ企業を抱えるイスラエルだ。イスラエルの起業率は国民1500名あたり1社に達しており、人口あたりの起業率が世界で最も高い。

近年はイスラエル進出を図る日本企業は増加しており、政府もその動きを支援する中で、大きな成果を生み出す事例も浮上した。

昨年5月にキヤノンは、イスラエルのマシンビジョンのスタートアップ企業「Briefcam」を、9000万ドル(約99億円)と伝えられる金額で買収した。Briefcamはビデオシノプシス(Video Synopsis)と呼ばれる映像サマリー技術を持ち、蓄積された膨大な録画映像を効率よく再生・確認することが可能だ。この買収は、日本企業によるイスラエルのテック企業の買収としては、過去最大レベルのものとして注目を集めた。

日本貿易振興機構(ジェトロ)の直近のデータによると、日本企業と提携した66社のイスラエル企業の約3分2が、近年のイスラエル経済の拡大により営業利益を拡大している。また、イスラエル企業に出資する日本企業の80%が、今後さらにイスラエルでの事業を拡大する意向だ。

日本とイスラエルは互いの弱点を補完

今回のジェトロの調査で、日本企業が出資するイスラエル企業の全てが今後、IoTやAI(人工知能)などの新たなテクノロジーに、成長機会を見出していることも明らかになった。

しかし、日本企業がイスラエルでの活動を高める一方で、過去5年間のイスラエルへの海外からの投資額に占める、日本の割合はわずか2%にとどまっている。さらに、日本企業のイスラエル企業との提携件数は、世界トップの10カ国中で最低となっている。

日本企業は、イスラエルのテック企業とのオープンな取り組みに消極的な傾向がある。背景には2カ国間のカルチャーの違いがあげられる。日本企業はビジネスやマネジメント方式の違いを理由に、海外でも日本企業とのみ交流する傾向がある。

この状況は、日本企業の上級幹部が海外に出かけ、現地でダイレクトな決定を下すことを拒む傾向によって、さらに悪化している。

日本の企業は、海外でのビジネスを中間層の社員に委ねることが多いが、イスラエル企業は日本企業ほど強固な社内ヒエラルキーを持たない場合が多く、現場に混乱が生じている。

しかし、日本とイスラエルが経済的な関わりを深めるなかで、以前のような文化的ギャップは解消する方向に向かっている。日本とイスラエルは現在、互いの弱点を補完する関係に向けて前進している。

イスラエル人がクリエイティブなアイデアをもたらす一方で、日本企業の幹部は、そのアイデアを実際のプロダクトとして市場に投入する役割を担っている。

R&D領域ではイスラエルの強みはリサーチであり、日本の強みは開発力だ。日本企業は、ごく小さなモジュールであってもそれを市場で製品化する能力に長けている。

翻訳・編集=上田裕資

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