アップルは、2017年11月からスタンフォード大学と共同でアップルウォッチのユーザー40万人を対象に、心房細動(不整脈の一種)の検出テストを行った。心房細動は心臓麻痺や心不全などの、重大な疾患の予兆だとされる。調査の目的は、アップルウォッチを使って無症状の心房細動を検知することで、その結果は非常に前向きなものとなった。
調査では、参加者の0.5%がアップルウォッチから心房細動の可能性があるとの通知を受信したという。参加者の年齢分布は不明だが、この数値は社会の実体に即した値だ。
一般的に、先進国では人口の2〜3%が心房細動を経験すると言われるが、49歳以下は0.14%であるのに対し、80歳以上は13%と年齢によって割合は大きく異なる。誤検出はユーザーに精神的ストレスを与えたり、保険制度に不必要な負担が掛けるため、信頼に足る精度が得られたことは重要な成果だ。
アップルウォッチから通知を受信したユーザーが直ちに心電図検査を受けたところ、71%のケースで異常が認められたという。また、アップルウォッチと心電図を同時に用いて測定したケースでは、アップルウォッチの精度は84%に達したという。
アップルウォッチから通知を受けたユーザーが1週間後に再び心電図検査を受けたところ、心房細動が確認されたのは34%に過ぎなかった。心房細動は断続的に発生するため、継続的なモニタリングが非常に重要となるが、従来の手法ではコストが高く、現実的ではなかった。
アップルウォッチはまだ医療水準に達していないものの、84%の精度は最初のステップとしては有望であり、継続的なモニタリングに有効だ。心房細動を検出する最も簡単な方法は、血圧と血糖値を測定することだ。
アップルが医療機器の市場を奪う
先進国では、人口の3分の1が高血圧だと言われるが、自覚して治療を受けているのはその半分に過ぎない。高血圧と糖尿病の治療には、継続的なモニタリングと生活習慣の改善が重要だが、従来の医療機器は高価でサイズも大きいため、継続的なモニタリングには適さない。
アップルウォッチなどのウェアラブルが医療水準に達すれば、格段に安いコストで継続モニタリングを行うことが可能になるため、潜在市場規模は非常に大きい。また、疾患の70%は生活習慣に起因していると言われ、ウェアラブルを使って改善することができれば、医療システムの負担軽減につながる。
今回の調査結果は、アップルにとって非常に前向きな内容だ。また、ユーザーにとっては、高い金額を払ってでもアップル製品を買い続ける動機になる。医療領域のウェアラブルでは、「Valencell」(血圧が測定できるイヤホン)や「Lehman Medical」(スマホを用いた血圧測定)、「LifePlus」(スマートウォッチを用いた血糖値測定)なども注目に値する。
精度の向上にはまだ時間が掛かるかもしれないが、今後はハードウェアよりもソフトウェアによる精度改善が見込まれる。ウェアラブルテバイスが医療機器メーカーの脅威になる日はそう遠くないかもしれない。