年間3000万人を超えた訪日外国人だが、米国や豪州を含む欧米からは全体の10分の1(12%)を占めているに過ぎず、近隣アジアからの訪日客に比べれば圧倒的に少ない(欧州からでは最多の英国で33万4000人)。それでも、2017年に日本政府がロシア人に対するビザ緩和を実施したため、ロシアからの観光客の数は伸びているようだ。
ウラジオストクから成田までのフライト時間は2時間20分と、ロシアは日本に最も近い欧州の国ではあるが、これまで日本人にとってもロシア人にとっても、お互い「近くて遠い国」だった。
とはいえ、極東ロシアの人たちは親日的なことで知られている。背景には、1990年代のソ連崩壊後、彼らは経済的苦境に陥ったが、極東ロシアの人たちは地理的近さから、日本との中古車販売などの民間貿易を通して日々の生活をしのいできた経緯があり、日本の豊かさや安定した社会を知り、日本人に対して好意的な見方を持つ人が多いのだ。条件がさらに整えば、多くのロシア人が日本を訪れてくれるだろう。
高まる日本への関心、なぜ?
ロシアで発行されている隔月刊のカルチャー雑誌「KIMONO」の副編集長で、日本在住のアナスタシーア・ストレブコーワさんは、日本を訪れるロシア人が増えている理由についてこう語る。
「ひとつの理由は日本側の努力だと思う。最近、モスクワに日本各地の地方自治体が観光PRのため訪れるようになった。一方、ロシア人はNATOからの制裁もあり、旅行先もヨーロッパではなく、アジアに目が向いているところがある。加えて、日本は以前に比べオープンになってきたとロシア人は感じている。ここ数年、日露首脳会談も増え、プーチン大統領が日本をよく訪れるようになったことはニュースでも報じられていることから、日本に対するロシア人の関心が以前より高まっているのは確かだ」
副編集長のアナスタシーア・ストレブコーワさんはロシア沿海地方生まれ。極東国立連邦大学日本学部日本文学専攻卒(c)Evgenia Chiba
では、日本を訪れるロシア人観光客とはどんな人たちなのだろうか。
一般にロシア人の人気海外旅行先は、タイやベトナムのビーチだといわれる。彼らは必ずしも富裕層ではなく、むしろ中間層である。以前は黒海沿岸や中近東のリゾートに足を運んでいたが、「アラブの春」やシリア内戦、クリミア侵攻などが続き、リゾートどころではなくなった。
そこで、アセアンのハブであるタイや、社会主義時代にソ連や東欧諸国に多くの労働者を送り込んでいたベトナムが彼らのビーチリゾート地として選ばれたのだった。
なかでもベトナムには、すでにロシア人専用といってもいいリゾートタウンがいくつかあり、町はロシア語であふれ、現地の人たちもロシア語を話す環境ができている。理由は旅行費用が安いことと、ソ連時代の人的ネットワークがあるからだ。