努力し、証明する 女性が活躍するタイのレストランシーンの今

WIGの会場でスピーチするイタリア料理「Glass Hostaria」のクリスティーナ・ボウェーマンシェフ


ディスカッションの中で、タイの女性シェフのうち唯一、「差別的な扱いを受けたことがある」と発言したのは、海外経験の長いラングティワ・チュモンコンシェフだが、差別を受けたのは、タイでではなく、むしろ男女格差が比較的少ないとされる北欧・デンマークでだったと言う。

「私たちアジア人女性は小柄な人が多い。デンマークでは、『そんなに小柄なのに、どうやって仕事するつもりだ? タフな厨房の仕事は務まらない』とまず断られましたが、説得して、2日働いてみることになりました。その間に、私は小さい分素早く働ける、と言うことを証明して見せたのです」

パネリストのクリスティーナシェフも、身長155センチほどで小柄だ。「男性シェフから、『平等だと言うのなら、男と同じように、重さ25キロの物を片手で持ち上げられるのか』と言うような挑発的な言葉を受け取ることもあります。確かに、それは難しいかも知れません。けれど、現代のシェフは、持ち上げられる重量ではなくて、クリエイティビティを競う仕事だと思っています」

パネルディスカッションで、多くの女性シェフの口から聞かれたのは、「証明する」という言葉だった。

強みを把握し、弱みは努力でカバーする

去年12月に世界経済フォーラムが発表した、男女格差指標では、149カ国中、日本が110位なのに対して、タイは73位。厨房に限らず、女性にとって日本より働きやすい環境であるかもしれないが、実力が伴ってこそ、と言うのは当然だ。

それは、イベント会場となったホテル「バンヤンツリー・バンコク」で、グループ初の女性ジェネラルマネージャー(GM)となった、ノッパラット・オンパの口からも聞かれた。



「私は24年間このホテルグループで働いてきた、いわゆるたたき上げです。2年ごとに昇進して、すべての部署を経験し、2005年に女性初のGMになりました。女性は能力に欠けると思われることが多かったですが、私はそうではないと実証していきました。自分の強みを把握しつつも、弱い分野を補うために大学に行くなど自ら学びました。それは今も続けています」

自身へのストイックな姿勢に相反して、その人当たりは限りなく柔らかい。パネルディスカッション前日のディナーを共にしたが、「タイ人の名前は長くて発音しづらいでしょう。私のことは『カイ』と呼んで」と、明るい色の花柄のスーツをまとい、冗談ばかり言って笑う、快活な女性。

コミュニケーション力が高く、「GMの仕事以外にも、各部署から些細な日常の相談を受けることも多い」と言うのもうなずけた。

この前日のディナーを取り仕切ったのは、世界に10店を展開するタイ料理「Saffron」のグループ・エグゼクティブシェフのレヌ・ホムソンバットシェフだった。

ディナーの最後に紹介されたレヌシェフは、マイクを渡されても、胸に手を当てて言葉を詰まらせ、「こんな素晴らしい人たちに囲まれて、緊張します、料理は気に入っていただけましたか?」と恥ずかしそうに話した。その姿は海外店を含めた多くの店舗を取り仕切るエグゼクティブシェフと言うよりも、初めて大仕事を任された若手のようで、意外に見えた。
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文=仲山今日子

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