再びブダペストに目が向いたのは、大手との熾烈な価格競争の中、創業して半年以内に「SuperSize Digital」の先行きが見えなくなったからだ。タスカーがスタートアップシーンの視察のためにブダペストを再訪すると、5年間で状況は一変していた。
「至るところでスタートアップが生まれていた。どのコワーキングスペースにも多種多様な企業が入居していて、中には旅をしながらオンラインでスタートアップを運営している人々もいた」とタスカーは振り返る。
タスカーは「SuperSize Digital」の拠点をブダペストに移し、2017年には経営を軌道に乗せた。タスカーにとって、ブダペストでビジネスを運営する最大のメリットは人材だという。
「高度な教育を受け、技術を持った若者たちがいる。しかも彼らは、仕事熱心で向上心にあふれている。新しいビジネスを成長させるためには欠かせない存在だ」
また、法人税率の低さも大きな利点だ。ハンガリー政府は2017年1月に法人税をEU加盟国では最も低い9%に引き下げ、さらに「初期ステージ」のスタートアップを対象とした減税措置も導入した。
スタートアップの養成にも力を入れており、中央ヨーロッパ大学をはじめブダペストの内外でインキュベーターの設立を支援している。「これらの利点に加えて、ブダペストはヨーロッパで最も美しい街の一つでもある。スタートアップが集まってくるのは当然だ」とタスカーは話す。
もっとも、デメリットがないわけではない。最大の問題はインフレ率の高さだ。「物価の上昇率が賃金上昇率を上回っていて、多くのハンガリー人が都市部を離れることを余儀なくされている。故郷に帰る人や仕事のために引っ越す人も多い」
それでもテック系のスタートアップを低コストで立ち上げたい起業家にとって、ブダペストは魅力的な都市だとタスカーは主張する。タスカー自身、年内にスタッフを8人から14人に増員するつもりだ。
「事務所を構え、従業員を雇用する従来型のビジネスであれば、ブダペストという選択肢は悪くないはずだ」