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2019.03.20

夢の音楽フェスはなぜ、失敗に終わったのか? 「FYRE」から学ぶ、SNS時代に必要な企業の価値観

Konstanttin / Shutterstock.com

多額の資金を集めて、今までにない新しいことを仕掛ける。そんな起業家の姿に刺激を受け、自分も頑張ろうと勇気をもらうことがある。一方で、最近見たネットフリックスで配信中の作品を見て、大言壮語する起業家から「自分を過大に見せるのはよくない」という人生の教訓を得た。

カリブ海を望むバハマの島で、美女たちと豪華なパーティ。そんな夢のような音楽フェスティバル、FYRE Festival(ファイア・フェスティバル)をみなさんはご存知だろうか?

リゾート地で非日常な体験ができるこの音楽フェスは、100万円超えのチケットが発売されるほど高級で、2017年の春に開催が予定されていた。

しかし、そこに約束されたゴージャスな空間は存在しなかった。パフォーマンスをするはずのアーティストは出演をキャンセルし、わずか1日で中止。主催者は詐欺罪で禁錮6年の刑が科される事件へ発展した。

ネットフリックスで配信中のドキュメンタリー「FYRE:夢に終わった史上最高のパーティ」では、大惨事に陥った音楽フェスがどのように発足し、無残に終わるまでが記録されている。夢の音楽フェスは一体、どのように崩壊を辿ったのだろうか?

「今世紀最大のイベント」が始まった経緯

ファイア・フェスを発足させたのは、ビリー・マクファーランドという人物。彼は富裕層向けのクレジットカード「マグニシス」のスタートアップなどを経て、アーティストのブッキングができるアプリ「FYRE」を始動。それまでのアナログだった音楽業界の構造に革命を起こすような、画期的なサービスだった。その宣伝方法として、大規模な音楽フェスティバルを試み、ファイア・フェスを開催する運びとなったのだ。

音楽業界に強いコネクションを持つラッパーのジャ・ルールも、共同主催者としてチームに仲間入りをした。その他、ソーシャルメディアやマーケティング担当など優秀な人材が集められ、開発チームが結成された。

宿泊施設は、今までのフェスの常識を覆すほど豪華なものだった。参加者はテントやロッジを選べるほか、25万ドル(約2700万円)を支払うとシェフ付きのヨットに宿泊できるプランも用意されていた。

出演アーティストは、カニエ・ウエストが率いるG.O.O.D. Music、メイジャー・レイザー、Blink-182、ディスクロージャーなどの大物アーティストばかり。初開催のイベントでは考えられないほど豪華な顔ぶれだった。

インフルエンサーを起用した宣伝は、イベントの知名度を一気に上げた。ファイア・フェスの名を世に広めるため、ベラ・ハディッドやエミリー・ラタコウスキーなど、業界トップのスーパーモデルが集結。水着姿でフェスを楽しむ様子を捉えたプロモーションビデオを撮影し、勝ち組しか味わうことのできない「地上の楽園」が演出された。



さらに、400人ものインフルエンサーがFYREフェスを表すオレンジ色のタイルの画像をSNSで一斉に投稿。それが大きなバズを起こし、多くのメディアがファイア・フェスを取り上げた。発売から48時間以内に95%のチケットが売れたことから、その影響力の大きさが伺える。
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文=加藤優花

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