キャリア・教育

2019.03.23 10:00

大使夫人も「職業」だ 日本の魅力を伝える確かな方法

Alexandros Michailidis / Shutterstock.com


私は過去10年間で、12カ国17都市の各国大使や総領事、そしてその夫人たちにお会いしてきたが、いまでもおつきあいが続いている大使夫人のなかで、とくに記憶に残っている方のエピソードを紹介したい。
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以前、私がプロモーションのためにシンガポールに通っていた数年間で、3人目にお会いした駐シンガポール日本国大使夫人だ。

シンガポールに赴任される大使は、その後、さらなる主要国に赴任される人が多く(つまり有能だと評価されている大使が多いということ)、私がお世話になった歴代の3人の大使も、みな実に人間的な魅力に富んだ方々だった。もちろん、奥様である大使夫人もみな語学力に長け、とてもチャーミングな方々ばかりだったが、3人目の大使夫人は、そのうえ料理好きという趣味をお持ちだった。

私が地方自治体案件の晩餐会をする際には、必ずその地産の食材を持ち込んで、公邸料理人の方にいろいろと工夫して出していただくのだが、その大使夫人は、私が岐阜県のプロモーションで初めてお会いした時から、とても熱心に、いかに県の料理をアピールすると効果的かを一緒に考えてくださった。
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別な機会に、山形県のプロモーションで再びシンガポールにお邪魔した時のことだ。山形県の食材フェアをシンガポール郊外にある日系百貨店の食品館でも同時開催しており、朝から私や山形県のスタッフも売り場に立っていた。すると、そこに大使夫人が1人で買い物かごを手にいらっしゃり、真剣な表情で食材を吟味していたのだ。

思わず声をかけたら、夫人は少々気恥ずかしそうにしながら、「今晩、公邸で開催される晩餐会用の山形県の食材の追加と、さらに良い品があれば購入しようと思って来ました」と言われた。通常の晩餐会では、食材選びは公邸料理人に任せするケースが多いのだが、「より良いものを」ということで、夫人自ら、わざわざ足を運んでくださったのだ。

ここまで考えてくださる大使夫人もいるのだと感動したのは言うまでもないが、その後、夫人と幾度となく情報交換をするなかで、彼女がいかに自分の役割について真剣に向き合っているかを実感した。

「私は大使の妻として、日本をアピールしたく、アジアの臍(へそ)と呼ばれるシンガポールで日本を広く紹介すれば、必ずやアジア各地にさらに広がっていくはずと信じておりました」というメールをいただいた時は、「そう、その通り」と思わず口にしたものだ。

さらに、彼女から「シンガポールでいちばんと言われるエリザベス病院の売店に、鹿児島産のマンゴー、岡山産の葡萄や桃、産地は忘れましたが宝石のようなイチゴなど素晴らしいフルーツが並んでいました。聞けばシンガポールはもちろん、韓国、インドネシア、マレーシアなどの富裕層の人たちが入院中にそれらを食べ、あまりの美味しさに退院後も買いに来るそうです」とのメールをもらったときには、いままで考えもしなかった「ハイクラスの病院でのプロモーション」という視点に目覚め、これは現地に駐在して暮らしている人ならではの貴重な情報だと唸った。
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文=古田菜穂子

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