ビジネス

2019.03.22

ITビジネスの鬼門「介護」に挑む、神戸に現れたスタートアップ

KURASERU CEO 川原大樹

介護業界の課題といえば、介護に従事する人材の不足である。厚生労働省の推計によると、団塊の世代が後期高齢者になる2025年には、37.7万人が不足するという。

現状打開のため、ITを取り入れた業務の効率化が求められるが、なかなか進まない。なぜなら、この業界に精通したIT企業やエンジニアがほとんどいないからだ。それを証明する数字もある。国内最大級のスタートアップカンファレンス「TechCrunch Tokyo」のコンテストで、2017年までの5年間に計88社が登壇したが、介護関連はゼロだった。

そんな中、介護施設と病院勤務を経験した福祉のエキスパートが率いるスタートアップが、いま注目を集めている。

起業から1年で国内トップレベルの評価

3月21日、病院からの退院する患者と介護施設をマッチングする「KURASERU(クラセル)」は、DBJキャピタル、SMBCベンチャーキャピタルなどを引受先とする1.3億円の資金調達を行ったと発表した。

2017年10月に創業したばかりだが、2018年5月にベンチャーキャピタルの500 Startups JAPANから5000万円を調達すると、同年10月のB Dash Campのビジネスコンテストで3番手の評価を受け、12月のTechCrunch Tokyoのコンテストで決勝進出の6社に選ばれた。起業からわずか1年余りで日本を代表するスタートアップ企業になろうとしている。



クラセルが目をつけたのは、病院の退院時に、介護が必要で自宅に戻れない患者たちの問題だ。自宅へ戻れないとなると、介護施設に入らざるを得ないが、受け入れてくれる介護施設を探すには、病院のソーシャルワーカーや家族が、電話とFAXで施設側に連絡するしかない。

ところが、一度で決まることはほとんどなく、何度も電話をかけて、やっとのことで受け入れ先が見つかるというのが現実。また、病院のなかには介護施設の現状を把握できていないところもあり、家族に施設のパンフレットを渡すだけで、何のコネもない家族が困り果てるということもある。

そこでクラセルは、病院と介護施設のやり取りをオンライン上のチャットに置き換えた。両者の情報を共有し、退院患者を施設にスムーズにつなぐ。介護施設側もから病院へのアプローチもできるので、退院患者の動向をあらかじめ入手して、効率的な受け入れ準備をすることもできる。

これまでに神戸市内の4割以上の病院と介護施設で導入され、神戸周辺へとカバーエリアを拡大。現在、毎月に約80人の退院予定者がこのサービスに新規登録している。
次ページ > 「現場」出身の強み

文=多名部 重則

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事