ビジネス

2019.03.22

ITビジネスの鬼門「介護」に挑む、神戸に現れたスタートアップ

KURASERU CEO 川原大樹


クラセルは、2017年11月に神戸市の起業家育成プログラムに選ばれたスタートアップだ。

しかし当時、審査を担当した介護・病院分野に詳しいIT企業の幹部は「この業界では実績あるIT企業がことごとく失敗している。彼のような初めての挑戦ではとても無理だ」と首を横に振っていた。それもそのはず、IT企業が、介護の現場業務を分析し、業務改善ツールを開発しようとしても、現場の職員がなかなか本音で語らない。エンジニアのような外部の人間が現場に乗り込んでくるのを嫌う文化があるのだ。

ところが、同社のCEOである川原大樹は、起業前に病院でソーシャルワーカーとして2年半勤務し、介護施設を探す立場であった。その前にも、介護施設で2年間働いた経験がある。彼自身が、現場の生きた課題を知り尽くしていた。

川原は起業を決めた理由を、「介護施設と病院で働いたのは、日本で一番ペイン(苦痛)が大きい業界を体験したかったから。思ったとおり根深い課題があり、テクノロジーで解決したいと考えた」と熱く語る。サービス開始後は、神戸市内の中堅病院に勤めていたネットワークが役立つなど、現場育ちならではの強さもある。

政府系の日本政策投資銀行グループが出資に踏み切ったのも注目できる。全国で共通している課題の解決が、介護人材の不足解消への改革の第一歩と判断したといえよう。

さらに成長の可能性を感じさせるのは、「エリア独占型サービス」という点だ。つまり、特定のエリアで利用拡大が進むと、このサービスを利用しない病院や介護施設は退院患者のやり取りに不便が生じ、自動的に100%独占になりやすい。また、病院と施設・在宅の介護をつなぐ要介護者の情報プラットフォームとなる可能性も秘めている。

だからこそ、ベンチャーキャピタル(VC)がこぞって出資する。今は無料サービスで拡大を続けているが、ひとたび収益を確保するモデルが決まれば、一気呵成に伸びていくVC好みのビジネスモデルだからだ。そのタイミングはそう遠くない。その日が訪れるのが、楽しみでならない。

連載 : 地方発イノベーションの秘訣
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文=多名部 重則

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