数週間前、テスラのCEOであるイーロン・マスクが、今後はオンラインでの販売に限定していくと発表して、大きなニュースとなった。オンラインで売ることによって、車体価格が6%安くなるという説明があったものの、たとえばCNNは、数百もあるディーラーをほぼすべて閉鎖することはリスクが高い、と警告していた。
CNNは、試乗なしにクルマを買わせることは、いくら根強いファンに支えられているテスラであるとはいえ無謀だ、とも指摘していた。これには、テスラはシリコンバレーの企業らしく、超合理的な反論を用意していて、テスラの返品・交換・返金ポリシーは業界一で、お客さまがもしクルマを気に入らなかったら代金を返すのだから、これは究極の試乗だと胸を張っていた。
しかし、たとえ返金ができるとしても、それにともなう書類作成や、そもそも陸運局でいったん車両登録する手間、さらには自動車ローンの取り消しなどの手続きも煩雑で、書籍や玩具ではあるまいし、返金できるから顧客はハッピーというのは飛躍がすぎる、とCNNも反論した。
閉鎖で1600億円のペナルティが発生
去年、約2兆3000億円を売上をあげたテスラだが、赤字は約1000億円。営業利益を出すための努力はわかるが、バークレーズ銀行のアナリストのブライアン・ジョンソン氏も、ディーラーシップを擁している通常の自動車メーカーに対して6%くらいの値下げをしたところで、オンラインセールスが著しく利益に貢献するとは思えない、と手厳しい意見を突きつける。
こういうことをしていると、株主への印象もよくないとの指摘もある。オートモーティブ・ニュースによると、テスラは有価証券報告書に、「大都市にサービスセンターを設立して、販売と修理を展開することで将来は明るい」と書いたばかりで、そのわずか9日後にこのオンラインセールス戦略を発表している。そもそも前4半期に27もの販売拠点を新設したばかりだったのだ。
今回のオンラインセールス戦略での閉鎖対象は、全世界の378拠点のうちほぼ全部ということだが、電気自動車専門のニュースサイト、エレクトレックによると、すでに29拠点が閉鎖され、数百人の従業員が解雇されたという。
そして、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、さらなるリスクを警告している。それは家賃だ。同紙によると、アメリカだけでも106カ所ある拠点の賃貸契約を解消することが、同社が想定していたほど簡単ではない、と指摘していた。
同紙の計算では、いま閉鎖すると、約1600億円の契約解消ペナルティが発生するとしている。これは今年の赤字の160%にあたる莫大なコストだ。テスラは、賑わいのあるショッピングモールに店をたくさんつくってきたこともあり、モールはたいてい10年賃貸契約で、出て行くのなら10年分の家賃を払えと言われるのが通常だとしている。