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2019.03.23 18:00

『戦メリ』助監督が惹かれ続ける、宮沢賢治の「21世紀的良心」

ロジャー・パルバース氏

ロジャー・パルバース氏

井上ひさし氏や大島渚氏など多くの文化人との親交や、ビートたけし氏・坂本龍一氏出演の映画「戦場のメリークリスマス」の助監督として知られるロジャー・パルバース氏は、ニューヨーク生まれの作家、劇作家、演出家。元東京工業大学世界文明センター長でもあり、宮沢賢治を世界に広く紹介したことで野間文芸翻訳賞も受賞している。
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パルバース氏が日本におよそ50年暮らし、自身を「日本人」と感じるようになった裏には、数奇な運命があった。

1957年10月4日、ソ連による世界初の人工衛星「スプートニク」打ち上げ成功に衝撃を受け、UCLAでソビエト政治を学び、ハーバード大学のロシア地域研究所へ進む。だが米国学生協会から奨学金を受けてポーランドに留学したものの、同協会がCIAから違法な資金援助を受けていたことが露見、当時の米リンドン・ジョンソン政権を揺るがす大事件となった。氏はスケープゴートとしてスパイ容疑をかけられ、米国に戻ることを余儀なくされる。

そして1967年9月14日。ベトナム戦争への批判からアメリカを離れ、「まったくの未知の国だから」という理由で、日本へ。
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到着したその日、空港からのタクシーの窓から東京の夜の街路を目にした氏は車内で「ぼくは死ぬまでこの国に永住するぞ、ここがぼくの国だ」と独り言を言ったという。その後、「日本人の心をもつようになった」と感じながら日本に滞在し続けた。自著『もし、日本という国がなかったら』では、「日本という国は世界にとって、なくてはならない必要な存在」とも書く。

宮沢賢治が展開した、「あなたが幸せになれないとわたしは幸せになれない」「人間は森羅万象の一つの要素に過ぎない」という世界観を愛し、「賢治は19世紀に生まれた21世紀の作家だ」と評するパルバース氏。賢治の世界観は、日本ではまだあまり周知されていない「動物福祉(アニマル・ウェルフェア)」にも当てはまるという。

日本は、菜食主義やオーガニック畜産が広がりつつあるものの、世界的にはまだまだ遅れている状況がある。その証拠に昨年8月、米サイクリングチーム銀メダリストのドッチィ・バウシュなど10名のオリンピアンが、2020年の東京五輪で使用される食材の調達について、「鶏卵は100%ケージフリー(放し飼い・平飼い)」などと東京都知事らに嘆願声明を公表したことは記憶に新しい。

今考えるべき動物福祉とはなにか。賢治が遺したある物語を軸に、パルバース氏に寄稿いただいた。


「AとBの会話」

まずは、以下AとBの会話を読んでください。

「つまりお前はどうせ死ななけぁ行かないから、その死ぬときはもう潔くいつでも死にますとこういうことで、一向何でもないことさ」(A)

「私が一人で死ぬのですか。いやです、いやです。どうしてもいやです」(B)

「いやかい。お前もあんまり恩知らずだ。犬猫にさえ劣ったやつだ」(A)

AとBが誰なのかについてはあとで明らかにするが、何にせよ、「犬猫にさえ劣る」と言われるのは決してありがたいことではないだろう。

しかし、世界には、他人を犬猫以下の存在と考えている人もいる。世界の政治家は、国内外問わず、ほかの政治家を「犬猫にも劣る」呼ばわりするのを、あなたも聞いたことがあるだろう。

いずれにせよ、上の会話では、AもBも政治家ではない。この小文では、政治家たちのことは置いておくことにしよう。ここでのテーマは政治家ではなく、他の動物のことだ。
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文=ロジャー・パルバース 構成=石井節子

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