世界最大の3D祭りで感じた「ものづくり」のオープンイノベーション

SOLIDWORKS CEO ジャン・パオロ・バッシ(写真提供=ダッソーシステムズ)

2月10〜13日の4日間、米国テキサス州ダラスで「3Dのお祭り」が開催された。イベントの名称は「SOLIDWORKS WORLD 2019」。世界中で600万人が使うDCAD設計ソフトウェア、SOLIDWORKSが主催者だ。

SOLIDWORKSはフランスのソフトウェアメーカーであるダッソー・システムズのブランドの一つ。同社のもう一つの設計ソフトウェア「CATIA」が大企業に多く採用されているのに対して、中小企業や個人事業主など比較的パーソナルなユーザーを抱えている。

Adobe Photoshopやillustratorの3次元CADソフト版と考えれば判りやすいかもしれない。アントレプレナー(スタートアップ)、フリーデザイナー、造形アーティスト、学生などにもユーザーは広がっており、世界中に約600万人のユーザーがいる。

TESLAをはじめ世界のEVベンチャーのおよそ8割が設計ソフトにSOLIDWORKSを使用しており、日本の電動車椅子のスタートアップWHILLもユーザーだ。

前の席を目指してダッシュ


ドアオープンと共に駆け出す参加者たち(写真提供=ダッソーシステムズ)

2月10日午後、キックオフイベントの開場時間より10分前に、メインカンファレンスルームの前には数百人の人だかりができていた。扉が開かれると、“えべっさん”で知られるえびす宮総本社の正月の「福男」レースのように、前の席めがけてダッシュする。これは、SOLIDWORKS WORLDの“風物詩”らしい。

あらかた席が埋まると、今度は“ウェーブ”が起こった。よく見れば自然発生しているのではなく、リーダー的な人が扇動してやっているわけだが、しかしみんなやたら楽しげで、前後左右の人で握手をしたり談笑したりしている。



話を聞けば、SOLIDWORKSのユーザー同士が、前回のカンファレンスから1年ぶり再会や、オフでの初めての出会いを喜び合っているのだという。

参加者の多くは、SOLIDWORKSのユーザーだ。決して安くはないイベントチケットと飛行機代、ホテル代を払って、世界から6000人を超えるユーザーが集結した。学生の参加者も多くいた(費用負担はわからないが)。

オープニングイベントがスタートし、SOLIDWORKS CEOのジャン・パオロ・バッシが登場すると、ミュージシャンのライブのような盛り上がり。日本で見るテック系イベントとは熱量が全く違う。バッシが今後の戦略や搭載予定の新機能などを語り、参加者はメモを取りながら熱心に聞いていた。

世界中に144のユーザーコミュニティ

なぜSOLIDWORKSはこれほどまでにユーザーのロイヤルティが高いのか。それは、このソフトが、メーカーとユーザーのコミュニケーションによって進化するからだろう。SOLIDWORKSには世界中に144のローカルコミュニティがあり、年間のべ数百回のミーティングが行われている。参加者が3000人を超えるミーティングもあるという。

そこではユーザー同士が、SOLIDWORKSの機能をいかに使いこなし、いかにして腕を磨き、美しく機能的なプロダクトを考案するのか、そしていかにイノベーションを起こすのかを話し合う。技術交換やアライアンスの場になっているという。

SOLIDWORKS WORLDは年に1回、そのすべてのユーザーが一カ所に集まり、4日間寝食をともにする。毎回ダラスというわけでなく、異なる米都市で行うというのも特徴だ。
次ページ > 「ムリ・ムダ・ムラ」削減へ

文=嶺 竜一

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事