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F1で176回優勝 エンジン製作は英国のコスワース

エンジンもまた、F1のDNAを色濃く受け継いでいる。その開発を請け負ったのは、1960年代から多くのF1マシンにエンジンを供給してきた英国のコスワース。彼らが製作したエンジンを搭載してF1で優勝したマシンの数は、のべ176にも上る。

F1マシンと同様に、コクピットの背後に搭載するヴァルキリーの6.5リッター自然吸気V型12気筒は、排ガス規制に適合した公道用エンジンとしては驚異的な最高1万1100rpmまで回り、ターボの助けを借りずに1000馬力を絞り出す。ベースとなっているのは1990年代のF1用エンジンの技術だが、それから20年以上が経った今、素材や設計、製造技術は当時より進歩しているという。

アストンマーティンとエイドリアン・ニューウェイを擁するレッドブル・アドバンスト・テクノロジーは、この世界最高の公道用エンジンに、さらに近年のF1で使われているようなハイブリッド技術を組み合わせた。減速時に発生する運動エネルギーを電気に変換してバッテリーに蓄え、その電気で回るモーターが160馬力を発揮してエンジンをアシストするのだ。合計するとヴァルキリーのパワーユニットは最高出力1160馬力、最大トルク900Nmを発揮するという。

ボディはカーボンファイバー製

このエンジンとギアボックスが、車体構造の一部としてリアのサスペンションを支えるという設計も、またF1マシンと同様。剛性の向上と軽量化に寄与する。もちろん、ボディもF1と同じ炭素繊維強化樹脂(カーボンファイバー)製だ。車両重量はパワーの数字と1:1、つまり1160kg程度になる見込みだという(トヨタ・プリウスより350kgくらい軽い)。フォーミュラカーと大きく違う点は、ドライバーの横に備わるもう1人分のシートと、そして雨の日にも濡れる心配がないことだろう。



150台の限定生産も既に予約済み

この記事の冒頭では、F1ドライバーにならなくてもF1直系の技術を体験できるという意味のことを書いた。もちろんそれは嘘ではないが、しかし誰にでも可能というわけではない。

ヴァルキリーの価格は1台3億円を超え、しかもわずか150台の限定生産。その全数が既に予約で完売済みとなっている。アストンマーティンによれば、顧客リストには伝説的レーシング・ドライバーや成功した実業家、大物セレブリティ、クルマやアートの蒐集家などが名前を連ねているという。

ところで、北欧神話におけるヴァルキリーとは、戦で命を落とした勇敢な戦士の魂を天界へ導く、美しき女性戦士の姿をした半神と言われている。運転にはそれなりの剛猛が求められるということだろう。その覚悟がないオーナーは、ほとんど乗らずに所有するだけで満足していれば、いつか購入価格を上回る金額で売れることはほぼ間違いない。

V12エンジンがF1から姿を消したように、排ガス規制が今後も益々厳しくなることを考えれば、これほどの内燃エンジンを持つクルマが市販されることは、もう永久にないかもしれないのだ。

文=日下部博一

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