この連載では、新規事業開発や広告制作を手がけると同時に、本をこよなく愛する筆者が、知的欲求を辿るように読んだ書籍を毎回3冊、テーマに沿って紹介していく。第1回は、「感性を磨く」ヒントとなる3冊。
産業革命以降の近代社会は、私たちに多大なる便益をもたらした。しかし、生産の効率性が追求される一方で、再現性の高い仕事ができる人材、言い換えれば「高性能にマシン化した人材」が量産されてきたのではないだろうか。さらに近年では、ビッグデータ、AI、IoTといった言葉を聞かない日はなく、STEM(科学・技術・工学・数学)がもてはやされている。
こうした時代の流れに対し、規模の拡大に目を奪われ、効率至上主義、テクノロジー信奉に陥ってしまい、感性を麻痺させてしまってはならないと説くのが『センスメイキング 本当に重要なものを見極める力』(プレジデント社)である。
この本の中で、著者のクリスチャン・マスピアウ氏は「『GPS』ではなく『北極星』を」と記している。
なるほど、GPSは目的地をセットすれば行き先を案内してくれる。しかし、ナビに頼りきっていると、次第に目的地に対して鼻が利かなくなっていく。ビジネスでも、技術に依存していると、徐々に審美眼を曇らせ、解決すべき問題の本質が見抜けなくなっていくだろう。
テクノロジーが進化している今だからこそ、逆に頭上に輝く無数の星の中から北極星を見つけ出すセンスが磨くことが重要だとマスピアウ氏は言う。
ならば、その感性を磨くためにはどうすればよいのか。マスピアウ氏の言葉を借りれば、「『動物園』ではなく『サバンナ』を」ということになる。動物園で餌をもらうライオンではなく、サバンナで狩りをするライオンになることで、野生の勘を培うことができるというわけだ。守られた環境の中で、同じ面子と同じ風景を見る日常を繰り返すのではなく、組織の外に出て多様な人材に出会い、いつもと異なる光景に触れることで、「動物としての感性」が磨かれていくのではないだろうか。
眠れる「美意識」を呼び起こす
こうした世界の動向に呼応するかのように、日本でセンスメイキングの重要を説いているのが『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」』(光文社新書)である。
製品やサービスがなく、いち早く大量に生産・流通させることが課題であった時代は、効率を支える「論理」と「理性」が重要視されてきた。しかし、問題が複雑化している現代においては、論理と理性に頼って解決しようとすると、経営における意思決定が膠着し、その結果ビジネスが停滞するばかりか、論理や理性という「正解を出す技術」に傾倒すると、「コモディティ(量販店で特売される安物)化」を加速させると、著者の山口周氏は指摘する。
だからこそ、変化の早い時代に「真・善・美」を判断し、他と差別化できる製品・サービスを生むために、「直感」と「感性」を見直す必要があるというわけだ。
さらに、「アート」は感覚的にしか良さを主張することができないため、定量的な正しさを示すことができる「サイエンス」と戦わせると勝負は目に見えており、両者を敵対させるのではなく、バランスを保つことが重要だと山口氏は続ける。
しかし、考えてみれば、日本はもとから「サイエンス」偏重であったわけではない。元来は「アート」を大切にしてきた国である。答えのない時代、眠れる「美意識」を呼び覚まし、鍛え直すときがきているのかもしれない。