ナパの高級ワイン、プロモントリーが親子で繋ぐストーリー

プロモントリーを手がけるウィル・ハーラン氏


プロモントリーを訪れたとき、まずは畑を見学し、ワイナリー施設を訪問してから、ワインを試飲した。その一連の訪問で最も印象に残ったのが、非常にワイルドな環境で育つブドウから、洗練されたワインが生みだされるということだった。

プロモントリーは、カベルネ・ソーヴィニョンをベースに、メルローやカベルネ・フラン、マルベックを少量ブレンドした、重厚な赤ワイン。山で育つブドウの力強さと、カリフォルニアの太陽を感じる甘やかで凝縮された果実、奥行きのある味わいを持ち合わせている。2008年収穫から醸造を開始したが、この年のワインは販売されなかったので、デビュー作は2009年ヴィンテージだ。

ナパの山地の個性を活かすために、ワインの醸造もカスタムメイドで、常識にとらわれない。

たとえば、アルコール発酵では、畑の区画の個性により3種類の発酵槽を使い分け、その後の熟成では、フランス産のオーク樽のほか、オーストリアのストッキンジャーという樽を使う。リリースするまで、5年もの長い期間をかける。その間に、ゆっくりと強固なタンニンが和らぎ、様々なフレーバーが融合し、ワインに調和がもたらされる。


最新のワイナリー設備

親子2代で繋ぐストーリー

創業者の父からバトンを受け取った息子、ウィルは、ナパのセントヘレナで幼少期を過ごした。生まれ年の1987年は、偶然にも、ハーラン・エステートのブドウが初めて実をつけた年であり、彼は、父の努力を間近で見ながら成長した。ワイナリーの側で走り回り、醸造器具を洗うなどの手伝いもして、ファミリービジネスは身近なものだったが、小さい頃はワインビジネスに携わることになるとは思っていなかったと言う。

大学卒業後は、サンフランシスコのIT企業に就職した。実家が近かったため、ワインのブレンドや、小規模ながら自らのワインプロジェクトを試すうちに、ナパに戻りファミリービジネスに参画することになった。「小さい頃は色々なことに興味を持っていた。ナパで育った者にとって、ワインビジネスは当たり前のものだった。それがいかに素晴らしいことか、若いうちは分からなかったが、今となってはワイン以外の道は考えられない」と話す。

もともと、ハーラン・グループの3つのワイナリーは、それぞれに独自のコンセプトや目標を追求したもので、別個のものだ。プロモントリーの場合、土地を見つけたのは父であるが、ワインのコンセプトから実際のリリースまで、これまでの成功を導いているのはウィルであり、バトンはしっかりと引き渡されたと言える。


ストッキンジャーの樽から試飲用に2016年のワインを注ぐウィル・ハーラン氏

個性的な土地であるがゆえ、その可能性は計り知れず、土地を手に入れたものの、失敗するリスクも大きかった。手探り状態のなか、この10年間で土地の個性への理解も徐々に深まり、「ワインも年々、土地のピュアさを表現するものになってきているが、まだ始まったばかりだ。長い時間をかけて理解するつもりだ。」とウィルは言う。

ウィルが参画してから、ビジネス面でも新しい風が吹いている。ナパの高価格帯ワイン、特にハーランのように少量生産で、需要が供給を上回るワインの場合、メーリングリストを通じたワイナリーによる直売が基本だ。これに加えて、プロモントリーは、輸出については、ボルドーの世界的なネットワークを活用し、ブランドを構築するため、ボルドーのネゴシアン経由のルートも採用している。

また、ハーラン・エステートが住所非公開で一般の訪問を受けいれず、秘密に包まれているのに対し、プロモントリーは、予約制で一般顧客にも扉を開き、ワイナリー訪問と試飲を行なっている。これも、ウィルのアイデアだ。飲み手にプロモントリーのストーリーや体験を共有し、同時に彼らの声を直に聞き、関係を築くことも大事だと考えている。

最初のヴィンテージのリリースから十年が経ったが、長い目でみると、プロモントリーのプロジェクトは始まったばかり。広大な土地の可能性はまだ完全には明かされていない。もともと植わっていたブドウの木も、25年かけて、徐々に植え替える計画だ。今後の進化から目が離せない。

島 悠里の「ブドウ一粒に込められた思い~グローバル・ワイン講座」
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文・写真=島悠里

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