石川氏は、22歳で北極点から南極点までを人力で踏破、23歳で七大陸の最高峰の登頂に成功した。ちなみに登山家・野口健氏が七大陸最高峰の登頂に成功したのは25歳のことだ。
その後も世界各地を旅し続け、2004年には冒険家・神田道夫氏とゴンドラでの太平洋横断に挑戦。1日後に太平洋に着水、計画は失敗に終わったが、偶然通りかかった貨物船に奇跡的に救助され、一命を取り止める。この時に乗り捨てたゴンドラは4年後に、鹿児島県の南、トカラ列島の悪石島で発見された。なお、神田氏はこの後再度の挑戦で行方不明になっている。
危険を承知で空に焦がれ、空を旅する。地球の表面を這って遥か彼方を目指す。そんな体験があればこその、石川氏の金言の数々をご紹介したい。世界の重層性とは、現代における冒険とは、日常と非日常とは──。旅を終えるたびに蓄積されてきた氏の言葉から、われわれが自分自身の日常を生きるための目印、偏見を砕いて新たなチャンスに気づくためのヒントが見つかるかもしれない。
水戸芸術館現代美術センター作成「AUTHOAGRAPH」。石川氏の足跡を示したもの。「石川直樹展 この星の光の地図を写す」(東京オペラシティアートギャラリー・2019年1/12〜3/24)より。(c)鳴川 肇
体全体を使って、五感を総動員して生きるということ
──「Pole to Pole」という国際プロジェクトの行程中に撮った写真から編んだ写真集『POLE TO POLE 極圏を繋ぐ風』や、著書『極北へ』などを出版されています。なぜ、極地を目指すのでしょう?
「Pole to Pole」というプロジェクトには22歳の時に参加しました。世界7カ国から8人の若者が集まり、文字通りノースポールからサウスポールへ、北から南へと、人力で地球を半周するという試みでした。移動手段は、スキー、自転車、カヤック、徒歩など。2000年初頭に北磁極を出発し、2001年初頭に南極点に到達して無事に終了しました。
いわゆる「極地」とは、人間の居住環境から最も離れている場所のことを言います。北極や南極、ヒマラヤの山頂付近などですね。街では、惰性で生きていてもそうそうは生死に関わる局面に出くわしませんが、極地では、体全体を使って五感を総動員して生きようと思わないと生きられない。だからこそこうした場所では、生きていることの実感が得られます。初心に帰らせてくれる所だとぼくは思っていて。いわば、自分を一から作り直すような感覚があるんです。それが、極地に惹かれる理由ですね。