ビジネス

2019.03.13

過去最高の売上高を記録した京セラの「社員が泣いた夜」

京セラ代表取締役社長 谷本秀夫


黒字に転じたのは、プロジェクト開始から3年目。その生産ラインは今も変わらず稼働している。「僕一人でやったわけではないので」と謙遜するが、祖業の救世主ともいえる谷本の功績は大きい。

「研究開発、製造、営業、そのどこが欠けても結局うまくいかない。この時に一連のプロセス全てを経験して初めて、研究は個人でもできるけど、量産はチームワークがないとできないことを痛感しました」

その経験は、現職の前のファインセラミック事業本部長時代にも生きた。当時は定年退職者が新規採用者を上回り人手不足が深刻化。また、ベテラン社員が持つ“匠の技”を若い世代に引き継ぐことが難しかった。そこでロボティクスと人工知能(AI)を使って一気に物作りを変えようと実験的な取り組みに出た。

「ロボットによる工場の自動化は従来でもありましたが、AIを使ったセンサリングを実験的に加えることで、生産性と品質が格段に上がりました。AIがあらゆる条件を吸い上げて、故障の前兆や原因を教えてくれる。ビッグデータから叩き出された答えは人間以上に正確です」

同事業の売り上げは3年で10%以上UP。そのモデルラインが今期2ライン実際に稼働し、ほぼ予定通りの効果が見込まれている。今後は同ラインを全社に横展開していく。

「そこに関わった50人ほどで最近コンパをしました。大半が20代〜30代前半の若手で、1人のリーダーに苦労話を発表してもらうと、周りの若い社員がみんな泣いていたんです。やはり相当苦労したんでしょう。チームで成し遂げた達成感は大きいのです」

名誉会長・稲盛が掲げる経営哲学の一つに「利他の心」がある。それについて尋ねると、「自分を犠牲にしてでも周りのために、というのが良いのはわかる。けれど実感を伴って理解するのは難しい。若い頃は自分のことで精一杯でしたので、ようやく歳をとった今『なるほどな』と思えています」と笑った。

京セラフィロソフィが谷本の中に、静かに、だが確かに息づいているのを見た。


たにもと・ひでお◎1960年、長崎県生まれ。82年、上智大学理工学部卒業、京都セラミック(現・京セラ)入社。ファインセラミックの生産現場に従事し、2014年にはファインセラミック事業本部長を務めた後、15年に執行役員、16年取締役を経て、17年4月より現職。

文=池尾 優 写真=苅部太郎

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