ここで、社会保障制度を考えるため簡単な計算をしてみよう。
現在の平均寿命は、1935年当時と比べて約30%伸びている。そのため、社会保障プログラムの元々の計画と設計を維持するためには、社会保障の早期給付年齢を18.6年、完全給付年齢を19.8年先延ばしなければならない。そうなると受給開始年齢は、それぞれ80歳と86歳になる。
給付を受ける年齢をこのように大きく先延ばしすれば、当然多額の資金が節約され、制度の破綻をこれ以上心配しなくて済むようになる。しかし、ここでは財務的な影響ではなく社会的な影響に注意を向けてほしい。
私たちが老齢年金に対する社会的スティグマ、あるいはこれ以上の年になると老いて能力も落ちると考える年齢を80歳まで引き上げれば、55歳や60歳の印象はどうなるだろうか? この年齢層は中堅労働者となり、定年まで20年以上残されている。そうなれば、こうした世代は急に雇いやすくなり、学業の再開や起業、キャリアの転換さえもできる体制が整う。
米国では現在、民主党が社会保障変革を推し進めている。良い変更もあるものの、全て財務的なものなのでより多くの税金が必要になるし、現在の年金受給開始年齢を超えて働きたい人、働く必要がある人が多く存在することには対応できないままだ。
62~65歳の人は、高齢者で定年が近いというレッテルが貼られているため、必要な仕事や希望する仕事を得られずにいる。一方、定年を超えて働く人の場合は年金を受けつつフルタイムの仕事を行いダブルの収入を得ることができるため、社会保障制度の負担になる。
私がこのような意見を表明しただけで拍手喝采を受けたり、連邦議会議員への立候補を頼まれたりしないことは分かっている。しかし年齢差別が問題であると人々が考え、より高齢になるまで働き続けることに一定の利益があることを理解しているとすれば、政府の方針には財務的要素だけでなく社会的要素も反映しなければならない。