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モバイル・インターネットキャピタル元木 新:左 / ハシラス代表取締役社長 安藤 晃弘

体感した者だけが知る特別な世界。それがVR(仮想現実)である。家庭でも楽しめる新製品が続々と登場し、大きなエンターテインメント施設では行列ができるほどの人気だ。およそ多くの人が一度は「やってみたい!」と思うだろう。最も熱い業界のひとつVR市場で、施設型VRを手がけ急成長し、業界を牽引するのが〈ハシラス〉だ。


ハシラスの代表である安藤の前職は「手妻師(てづまし)」、江戸時代のマジックの演じ手を長年務めてきた。彼はプロマジシャンとして日本文化に根ざした舞台を作る表現者だった。同時にIT系の先端技術にも関心が強く、趣味の制作を続けていくうちに表現者同士のネットワークが広がりVRの世界に入っていくという変わった経歴の持ち主だ。

「とはいえ、ソフトやハードなどに特別強いという訳ではないんです。得意分野を持つ色々な人たちとチームを組んで何かを作ることを繰り返してきたことが今の下地になっています。動画投稿なども今ほど盛んでない時代から、パフォーマーや撮影・編集のできる人に頼って形にしていたんです」本人は謙遜するがこのリーダー気質が、同社の成長の理由にもなっている。

実はVRが提唱されて51年。模索から好機へ

2014年5月、安藤の人心をまとめる力で作られたファーストプロダクト「ハシラス・レース」は、ハウステンボスに施設型VRとして納入が決まる。

「この機会を得ることになったのは、株式会社エクシヴィの代表・近藤義仁さんがVRコミュニティを作ってくれていたからです。今のブームの黎明期に、すごい才能を持った方々が毎晩のように集まってディスカッションされていました。ハウステンボスは、ハコスコ代表の藤井直敬さんのご紹介でした。当時集まっていたみんなは、今でも熱く業界を引っ張っています。私はその頃から〈体感+VR〉が面白いと感じ、今もそれを追求し続けています」

インターネット黎明期の起業家ストーリーを彷彿とさせる話だ。そして安藤はVRの今について、その発展にはいくつか壁があると言う。まずひとつは非常に高価であること。リッチな体験には高額なPCやデバイス、施設型VRも驚くほどの投資が必要だ。そしてもうひとつは装用感。長時間つけていても快適さをそこなわない製品はなかなかない。しかしこれらは徐々に解消しつつあるという。そして一番重要な点は「伝播」だ。



安藤 晃弘|株式会社ハシラス 代表取締役社長
会社名でもある乗馬レースのVRアトラクション「Hashilus」を皮切りに、数多くのヒットを送り出す。VRコンテンツとハードウェアを両方組み合わせ、これまでに無い新しいプロダクトを生み出すことができる。CEDEC AWARD 2018 ゲームデザイン部門優秀賞受賞。

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「例えば家庭用ゲーム機は2つ以上のコントローラーがあります。1人が買うと2人で遊べる。それが伝染・伝播の発火点。しかしVRは『個人体験』なので、すごい!という感覚はヘッドセットを実際にかぶってもらうまで広がらないんです」

伝播する力の弱さを理解し、その高いハードルを超えるために安藤はこう続ける。

「伝播の壁を越えるためには、飛び抜けた驚きや感動を提供し、別の仲間を連れて体験できる場が必要。私たちは、感動体験を設計し、それを実現できるハードとコンテンツの両方を作れる稀有な会社です。大の大人が絶叫して大はしゃぎするような体験は他のアトラクションではなかなか無く、仮想空間を使ったマジックのステージを演出しているような気持ちです」


ベンチャーキャピタルの目線
──VR業界とハシラス──

モバイル・インターネットキャピタル|元木 新
コンシューマ領域のVRは、安藤さんのおっしゃるように、価格や技術の面でまさに過渡期でしょう。課題も多い中で、べンチャーキャピタルとして注目したのは〈ハシラス〉さんの立ち位置です。「To B 向けのロケーション(施設型)VR」「ハードとソフトをすり合わせたプロダクト創出企業」の2点はほかに無い。投資というのは仮説検証の繰り返しです。「VRはto Cなのかto Bなのか」「強みはどこなのか」を見出すのです。ライバルのいない成長力をハシラスさんには感じます。



タッグを組み、業界の問題をも超えていく

マジシャン、古典芸人。発信力で人を巻き込み、自身を「企画屋」と言う安藤は今まで「個」のリーダーシップで会社を牽引してきた。そして現在、ベンチャーキャピタルという同志とともにVR市場のこれからを見つめる。

「ハシラスのプロダクトを欲しいと言ってくださりそれを製作する、期待以上の驚きと感動を与えることに注力する、この繰り返しの中でこれからの未来に作るべきものが見えています。しかしそれには資金も必要です。モバイル・インターネットキャピタルさんと並走するようになって資金や成長の課題に気付かされたとき、割と臆病に考える自分がいましたが、人を雇い会社をブーストすることがどれほど価値があるかがイメージできてきています。今のハシラスの立ち位置が市場の成熟化に伴ってプラットフォームになる。そのための開発も進めています」

成功する経営者は得てして臆病だが、もれなく安藤もそのようだ。経営者として、1点集中型の制作から複数の案件を並列に開発する方向へシフトしていくのだが、ハシラスの強みであるクライアントの要望に最高の解釈を形にして提供するモットーは変わっていない。単にVRのソフトだけでなく、必ずハードとともに作り上げることで完全な世界観を提供するのが安藤の目指す世界だ。

取材に同席したモバイル・インターネットキャピタルの元木は、ハシラスの強みの一つをこう強調する。

「VRというバリューのある付加価値の高い領域でリーダーシップを取れる企業はすごく価値が高い。例えばAIはよく分からないから、じゃあプロジェクトをインテグレートするために誰か手伝ってくださいという場合と同じで、VRもそういったインテグレーターが必要です。そのポジションを取れているのがハシラスさん。ソフト、ハード、制作陣、そして協力企業。案件を受託しながらもそのポジションは取れてるので、あとは、ベンチャーキャピタルの仕事としてはどのくらいの要素をどう加えるかを考えます。それは資金面のみならず、人的サポートに至るまで多岐に渡り、バリューアップを図る。そして企業価値をさらに上げていくのです」


元木 新|モバイル・インターネットキャピタル マネジングディレクター
最先端技術の動向、知財戦略の構想策定・実行支援に携わり、同社ではRPAやロボティクス関連にも注力。ハシラスの独自性と熱意を資金面、そしてメンターとして支援する。



ベンチャーキャピタルの目線
──市場の中で強みを見出すこと──

モバイル・インターネットキャピタル|元木 新
他がやっていないという強みは、ビジネスモデルということだけでなく実績・展望、そして熱意が伴うのが大事です。ハシラスさんにはそれがある。VR業界で優位性を持つハシラスさんにはその価値を最大化できるような取り組みを共に進めています。



上場を目指すのは「仮想ではない現実」

安藤は成長の過渡期でも楽観はしていない。

「ロケーションベースのVRの課題は儲からないと思われているところ。面白いものを作るだけでなく、体験のリッチさを維持しながらも収益構造を変えるなど、あらゆる施設のニーズに合ったコンテンツ・体験を作ることが大事です」

心をこめて〈体験〉をつくっていると熱く語る安藤。全身を揺さぶる体験が人を感動させるという言葉にうなずく元木。見えている経営者と先見のベンチャーキャピタルのタッグによって仮想ではなく現実に羽ばたく姿が見えてくるようだ。最後に安藤は元木にこう伝えた。

「ぼんやりとイメージしていただけの上場。しかし、ここを目指すことが一番私たちがやりたいことを実現する道だということに気づき始めています」

モバイル・インターネットキャピタル
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