イノベーションが進行するにつれ、テクノロジーにかかるコストは劇的に低下し、世界で新しいスタートアップが次々と生まれ、イノベーションは私たちの生活のあらゆるシーンに浸透してきました。
これから、そのイノベーションを引き続きリードするには、男性陣からの視点だけではなく、あるとあらゆる視点からの模索が必要となります。世界の人口の50%が女性です。消費財購入の80%を決定していると言われ、その額は2000兆円を超えます。
人間のライフスパンで考えると、世界の3分の2の人口と年齢層に、テクノロジーの恩恵が行き届いていません。男性がインフルエンサーである、20歳から60歳のビジネスを中心とした生活環境ではテクノロジーは発展してきましたが、誕生から20歳までの幼児教育などの分野、60歳以降から死ぬまでのヘルスケアや介護などの分野は、アナログな部分が多く、結果、女性が仕事を辞めざるを得ないなど、負担につながっています。
家事や幼児教育など、家族の課題を解決したりサポートする「ファミリーテック」という言葉も今年になって聞かれるようになりました。
テクノロジーで解決できるイノベーションの余地が多いにあります。ましてや、これからAIやAR、VRといったテクノロジーが生活の深い部分に関わってきます。そこに女性が入らないことで、どれだけの損失があり、問題が起きるかはかりしれません。だから今は、『女性』に特化した起業支援、サービスが必要です。
そして、いずれはエコシステム自体を作り変える必要があると、私は思っています。男性中心の起業エコシステムを改善し、女性により多くの機会を与えることで、さらにイノベーションが促進していくことは疑いの余地がありません。
世界に誇る、カウフマン財団(ベンチャーキャピタリストを育成する財団)が作ったカフマンフェロー。それまでは、ベンチャーキャピタリストといえばファイナンスの経歴をもった者がなるのが当たり前と思われていました。
しかし、バイオテックをはじめとする、あらゆる先端分野のイノベーションへの投資を考えた場合、ファイナンスのプロだけでなく、当たり前ながら、その分野のプロフェッショナルが入ってこそマーケットのポテンシャル、ニーズなど、正確は判断が可能であるという結論に至ったのです。
その結果、マーケットに理解の深い、各々の分野のプロをVCとして育てる機関が必要であるとの思いから、優れたベンチャーキャピタリストを育成するカウフマンフェローが誕生したと聞きました。
それと同じことが、今、正に私達の目の前で起こっています。女性の関わる多くの分野、ニーズ、マーケットへの理解が浅い男性投資家に、マーケットのポテンシャルを話しても理解できかねるという状況は、約50年前にファイナンスのプロが、バイオテックへの投資判断に苦しんだ状況と全く同じです。
私が率いるWomen’s Startup Labも、「女性」が冠されることで、ダイバシティーの機関だと勘違いされがちですが、未だ満たされていないマーケットへの投資、ライフスパン(0から20歳、60歳以降)でのイノベーションなど、女性だから知り得るマーケットを理解し、起業できる分野をより広げてビジネスチャンスとし、「人のためのイノベーション」(vs ビジネスのためのビジネス)をサポートすることを目標にしています。
このような「人のためのイノベーション」こそが、これからの時代に必要とされる真のイノベーションであると確信しています。
堀江愛利◎Women’s Startup Lab創業者兼CEO。米CNNビジョナリーウーマン、Marie Claire誌「世界を変えている20人の女性」に選出、安倍首相訪米時の首相主催晩餐会のMCのほか、SXSW等に登壇。主宰する「Women’s Startup Lab(WSLab)」は、イノベーションの聖地・シリコンバレーで、アクセラレータープログラムと呼ばれる起業家を養成するプログラムを運営。男性中心のビジネス環境を改革し、女性がビジネスにおいてより飛躍を遂げることができる場を創生することで、男女が共に活躍できる革新的なビジネス環境を構築することを目標として活動。