投資する母と、個としての女性
──他方、注目している傾向のようなものはありますか?
若干インフレ気味は否めませんが、子供関連ですね。働いていると平日習い事の送迎ができない方のために、習い事送迎タクシーというのがあるんです。1時間で5170円(一例)と高額なのですが、高いのに予約を受けきれないぐらいと聞いています。
──自分が乗るタクシーでも5000円超は顔から笑顔がなくなります。それでも構わず合理的にサービスを利用するんですね
あとは小学生の学童保育ですね。民間の小学校に併設しているような学童保育が5000円前後なのに対して、幼児教室とか進学塾が経営する学童保育は、月にベースが6、7万円で、加えて習い事2つぐらい合わせると10万にも達します。
ある首都圏の事業者では、施設の半分くらいは3年先まで予約が埋まっているそうです。お母さんたちは自分がたくさん教育を受けてきた世代で、子供にも教育をしたいが働いているので預け先がないと困る、という背景があるのです。
──自身の体験を投影するのは世代を問わずでしょうが、女性・母という視点で見るとわかりやすいですね
あとは小学校のお受験も変わってきていて、母親の4割ぐらいは働いているんですね。少し前のデータなので今はもっと多いと思います。
お受験って幼児教室に通って対策するのが一般的ですが、最近では幼児教室の広告のキャッチフレーズが「働いていてもお受験できます」とか「保育園でもお受験できます」といった内容になっています。土日にクラスを充実させていたり、平日の幼稚園が終わった後の2時~3時とかそういう時間に対策をするんです。
──驚きとため息ですね。一方で、冒頭の家族のコンパクトに関係しますが、単身もやはり多いのかなと思うのですが……
未婚化が進行しているのは事実です。現在では女性の7人に1人は生涯未婚という数字があります。その方々の中で男性並みに働く人が増え収入も上がってくると、いわゆる「おひとりさま市場」が恒常化します。
お一人さま市場という言葉自体が2000年に入って出てきましたが、最も大きな買い物の一つである住まいで言えば、40代の女性の持ち家率はその2000年頃と比べ、大きく上昇しています。子供を持っていても、一人でも、女性の経済力とその合理的な使い方は、どの指標を見ても興味深いものばかりです。
どんな世代でも、大事なのは家族
前編で示した若い世代の賢い消費、そして男女の平等意識や、働く女性の社会環境などが大きく様変わりしたのが平成という時代。これから時代の主役になるべき中堅から若い世代も女性が重要なキーワードの一つのようだ。
久我は自身の仕事について、「なんとなく世の中にモヤっと思われていることを数字で確認し、やっぱりそうだったとか、実はそうじゃなかったとか、その発見が興味深い」という。こうして浮かびあがる答えのひとつに「震災以前から20代が一番大切だと思っているものは家族」という数字があるという。その割合は年々増えていると教えてくれた。
それぞれの世代が、どんな世代の呼ばれ方をしていても、大事なのは家族というところに安心感を感じるのは私がオジさんだからであろうか。
久我尚子◎ニッセイ基礎研究所 主任研究員 。消費者行動、心理統計、保険・金融マーケティングを研究分野とし、人々の暮らしをデータから読み解く。最近のレポートに「日本の家庭に眠る”かくれ資産”総額は推計37兆円」「女性のライフコースの理想と現実」など多数。著書「若者は本当にお金がないのかー統計データが語る意外な真実ー」(光文社)