狂犬病が50年以上発生していない日本で、犬の予防接種が義務化され続けているのはなぜ?

(Yuki Cheung / Getty Images 画像はイメージです)


現在、農林水産大臣により認められる「清浄国(指定地域)」はごくわずかで、アイスランド、オーストラリア、ニュージーランド、フィジー諸島、ハワイ、グアムの6地域のみだ。アジア、アフリカ圏では特に注意が必要で、渡航前に、人もワクチン接種が奨励される地域が少なくない。発生国では、動物に不用意に手を出しやすい子供の感染例が多いのだそうだが、清浄国に住む日本人こそ、認識不足と油断に注意する必要がある。
 
実は2013年以前、台湾も清浄国のひとつとされていた。しかし2012年から開始された調査で、野生動物での感染が発覚。さらに野生動物に咬まれた犬でも感染が認められ、清浄国から除外されることになった。
 
著者は、2004年に台湾を訪ねたことがあったが、車の行きかう路上を、多くの野犬がうろついているのを目にした。凶暴な犬はおらず、人も犬も互いの存在に寛容な態度であるように見えた。同時に清浄国とは言え、狂犬病のリスクが脳裏をかすめた。
 
野犬が多い=狂犬病が発生しやすい、という構図は必ずしも正しくない。だが人と生活圏が重なり、人への主な感染源(95%以上)である犬での予防コントロールは、やはり重要になってくる。

日本では、「狂犬病予防法」の中で、予防接種を飼い主に義務付けるとともに、予防接種を受けていない、また注射済みの鑑札票をつけていない犬の抑留も義務付けている。つまり、首輪も鑑札票も付けていない野犬は、捕獲、抑留の対象となる。
 
都市部では、飼い主のいない外猫は至る所で目にするが、野犬はほとんどいなくなった。狂犬病予防の施策が、それに関わっていることは間違いないだろう。

誤解されやすいが、狂犬病は犬特有の感染症ではない。ほとんどすべての哺乳類に感染し、発症する。発生国では感染源として、猫やアライグマ、スカンク、コウモリなども多く報告されている。ゆえに、冒頭で紹介した検疫の対象動物には猫も含まれる。国内にいる限り、予防接種の義務はないが、出入国となると勝手が違うことには要注意だ。

人獣共通感染症を予防するために、身近な犬や猫、その他の動物をどのように扱うか。これも普段、あえて顧みることのない「人と動物の関わり」に違いない。
 
ザギトワ選手とマサルの雄姿を日本で見ることができる日は近いのか。そんなことを期待しながら、人と身近な動物の関わりについても、想いを馳せてもらいたい。

文=西岡真由美

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