狂犬病が50年以上発生していない日本で、犬の予防接種が義務化され続けているのはなぜ?

(Yuki Cheung / Getty Images 画像はイメージです)

ロシアのフィギュアスケーター、アリーナ・ザギトワ選手が、本国から秋田犬の愛犬「マサル」を連れて来日か、実現すればマサルにとっては初の里帰りになる、というニュースが報じられた。
 
同時に、マサルの来日が実現するには、「検疫」という障壁があることにも触れられた。3月20日からさいたまスーパーアリーナで行われる世界選手権が、その機会になるのではないかと期待されたが、マサルが検疫をパスするためには、長くて180日以上を要する。事前に準備を進めていれば40日で済む場合もあるが、結局は実現しなかった。
 
犬が日本にやって来るのは、そんなに大変なの? 多くの人がそう思ったことだろう。

でもこれ、犬だけでなく、ビジネスや旅行で海外渡航する人にも大いに関わることなのだ。

今回は、身近だが実はよく知られていない人と動物の関わりを、検疫の話題から紹介する。
 
1年に1回、飼い犬に必ず受けさせないといけない、といえば「狂犬病」予防接種(ワクチン接種)。犬を飼う人なら、知らない人はいないと言えるくらい、認知度の高い感染症だ。
 
ところが、認知度が高いのは予防接種を受けるというルールに対してで、狂犬病がどんな病気なのかは、くわしく知られていないように思う。
 
それもそのはず、日本は狂犬病が50年以上発生していない狂犬病「清浄国」とされている。国内で、身近に見ることも、危険を感じることもなくなって久しい。それでも犬の予防接種が義務化され続ける理由は、この感染症を二度と国内に発生させないための対策のひとつとしているからだ。
 
さらに島国である日本は、撲滅した感染症などを再度持ち込ませないための防壁をつくりやすいという地の利も持ち合わせている。感染症が海を渡り、港や空港から上陸する前に、跳ね返す「水際対策」を講じやすい。その時、上陸(入国)の良し悪しをジャッジするのが「検疫」だ。
 
犬の場合、狂犬病を持ち込ませないための細かな決まりと手順が設けられている。個体識別のためのマイクロチップ挿入やワクチン接種、さらにワクチンによって免疫が獲得されていることの証明(血液の検査)まで。
 
そこから、万が一感染していた場合の潜伏期間180日の待機を終えて、ようやく日本へ入国できる。これは、日本から連れ出し、帰国する際も同じで、直前に知ったら大慌てになること必至だ。
 
ただし、これらの準備をあらかじめ済ませていれば、40日前までに日本に到着することを届け出ていればいい。手順を知っているか否かで大きな差が出るのが、愛犬との出入国なのだ。
 
日本では「過去の感染症」とも言える狂犬病を、なぜそんなに徹底対策するのか、疑問に思う人もいるだろう。

狂犬病は人にも動物にも感染する人獣共通感染症だ。感染動物の唾液に排出される狂犬病ウイルスの感染によって引き起こされる。ウイルスは神経細胞を伝って中枢神経に到達し、狂騒や麻痺と言った神経症状を起こす。発症すれば、ほぼ100%が死亡する警戒レベルの高い感染症で、世界では年間6万人以上が犠牲となっている。

冒頭で、犬のみならず渡航する人にも関係があると話したのは、このためだ。

確かに1957年以降、日本では狂犬病の自然発生は見られない。だが、国内で狂犬病を発症して死亡した日本人が、1957年から2015年までに3人確認されている。それぞれ、旅先で感染し、帰国後発症して死亡している。
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文=西岡真由美

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