ギリシャの不動産業界に詳しい弁護士によれば、「エアビーはギリシャの不動産市場の状況を一変させた」。「賃貸物件の需要を押し上げ、市場の安定化を助けた」という。
また、不動産事業にも関わる同国の持ち株会社、ディオンの社長もこれと同じ考えだ。「改修を行う建物を急増させ、建設業における雇用を生み出し、不動産所有者に収入をもたらした」と語る。
これらはまさに、ギリシャが必要としていたものだ。全般的な経済の低迷を受け、同国では所得の減少とともに賃料も下落。2009年に100だった住宅価格指数は、2017年には58.9にまで低下した。
最も人気の高いエリアでも、資産は負債に変わった。債務危機が発生した2010年以前に76%だった持ち家率は、最近では72%に低下している。
こうしたことから見れば、エアビーのギリシャでの事業は当初、同国にとって望ましいものだった。住宅価格指数は回復し、2018年末には60を超えた。
「恩恵」の一方で鮮明になる悪影響
住宅所有者や家主にとっては、エアビーの存在価値は今も高い。だが、自宅を売却し、賃貸物件で暮らしている人たちにとっては、その存在は悪影響だ。前出の弁護士は、「エアビーによって、地元の人たちにとって適当な家賃の賃貸物件を見つけることが困難になった」とも述べている。
アテネ商工会議所の顧問によれば、「長期契約できる賃貸物件が大幅に不足し、それが賃料の高騰につながっている」。街のランドマークに近い地区以外でも、状況は同じだ。低所得層が多いパティシアのような地域でも、賃料は過去一年間で25%上昇した。
同顧問はまた、「ギリシャが戦後最悪の不況から脱け出そうと努力している中で、こうした状況が発生している」と指摘。「これほどの家賃を、どうしたら払えるというのか?」と疑問を呈する。
「払うことはできない」というのが、その疑問に対する答えだ。同顧問によれば、ギリシャ国民の所得は債務危機を受け、30%減少している。さらに、若年層の失業率はいまだ40%近い水準にとどまっている。若者たちにとって、家賃は大きな問題だ。
一方、エアビーがギリシャにもたらした不愉快な現実に直面しているのは、賃貸物件を探している人たちだけではない。同社が事業を拡大してきた世界中のその他の都市と同様に、エアビーが仲介する物件との競争にさらされているホテルにも影響が及んでいる。
ギリシャがエアビーから受ける恩恵が、犠牲を上回るものになるかどうかはまだ分からない。だが、明らかになっていることが一つある。アテネのランドマーク周辺は、もはや地元住民のための場所ではないということだ。