フリーライター/エディター




谷本:内閣総理大臣賞を受賞したプロジェクトの評価はいかがでしょうか。住民のデータを活用し、青森県が抱えていた「平均寿命が短い」という課題を解決する姿勢が評価されました。

平井:地域自治体を巻き込みながら、真正面から課題解決に取り組み、データ活用で成果を出した点に大きな価値がある。いまはあらゆる組織でAIやデータ活用が叫ばれているが、データ活用について、手段が目的を追い越す、何をしたいかわからないにも関わらずデータを集めるということが起きがちだ。

重要なのは、ミッションを明確にし、問題解決のためにはどんなデータが必要なのかを考え、集めたデータが本当に解決につながるかを検証し、使用できる状態にクレンジングし、「信頼できるデータ」をもとに様々なことを進めていくこと。

さらに、国民の皆さまにも、メリットが現れていることも大切な要因となる。データを提供する側にもメリットを感じ取れる活用は意外と多くないので、健康医療分野で実現できているこの事例は、素晴らしいと思う。

谷本:日本が抱えている高齢化社会というテーマにコミットしている点もポイントですよね。

平井:わかりやすいテーマは、この分野だろう。人口の半数以上が50歳以上となる人口モデルは、これまで地球上に存在していない。だからこそ、世界から「日本がその中でどうするか」について注目が集まっている。

日本で成功すれば、追随するそのほかの国でも利用可能だ。社会実装の場として、日本には大きな価値がある。ピンチがチャンスになりうる。それは、自動運転が公共交通機関で始まっていることや、デジタル化の中で高齢者がいかに幸せを感じることが出来るか、ということも同様だろう。

例えば、「転ばないための靴」。これは、私がスタートアップと意見交換する「HIRAI Pitch」で出会った、加速度センサーで体重移動などのデータを測定でき、光る靴を開発するスタートアップの製品だ。左右のバランスの良し悪し、どのように転ぶのかが瞬時にわかるようになり、高齢者が転ばないように歩行訓練やレクリエーションをすることが可能に。リハビリやアスリートのトレーニングにも利用できるだろう。



谷本:ほかに審査会で議論を呼んだのは、科学技術政策担当大臣賞の「ミツバチプロダクツ」です。こちらはどう思われますか?

平井:審査結果の報告を受けたが、ミツバチプロダクツは、パナソニックで事業化できなかった技術をカーブアウトして立ち上がったスタートアップ。大企業で活かしきれずに眠る技術や人材を切り出して、外部プレーヤーと繋いで事業化する仕組みの第一号として意義深い。こういう事例はまだまだあるはず。日本の大企業、中小企業に眠っている技術が多い。それらがイノベーションの起爆剤になる可能性を秘めていると思う。

谷本:私もミツバチプロダクツの関係者にお話を伺ったことがあります。製品を世に出したこと以上に、これまでボツになっていた企画書を事業にできたことで、また自分のセンスを信用してやりがいをもって働けるようになったとおっしゃっていました。

平井:また、ミツバチプロダクツが世界の食文化への提案であることも面白いと思う。日本では食に対するこだわりが強く、質が高い。世界が日本を褒める点に「食」がある。例えば、抹茶やラーメンの人気が出て、海外で進化して逆輸入する事例も出てきた。

日本の食に対する感覚はトップレベルにある。こうしたグローバル環境下で、技術を持っている日本企業がもともと想定していなかったことを、スタートアップが日本と世界で製品化し、ブランド化する。こうした新しいモデルは、特に成功してほしい。

谷本:食品、外食産業はイノベーションが進みにくい中、オープンイノベーションが活路になると思います。「ディープラーニングを食べ物の領域につなげたい」と東京大学大学院工学系研究科で人工知能を研究する松尾豊特任准教授もおっしゃっていましたが、これがクールジャパンにつながる可能性もありますね。

構成=野口直希 写真=若原端昌

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