現代人にとっての上質さを探求
彼らが定義する“イノベーター”とは、必ずしもIT業界や起業家に限った話ではない。沼田は「世界をよりよい方向に進められる人だと認識しています。最初はかなり明確にターゲットを絞っていましたが、今後はさらにイノベーターのターゲットを広げていくつもりです」と話す。
もともとアメリカのD2C事情に感化されてブランドを始めたわけだが、沼田は「自分たちではD2Cブランドだとは思っていません」と言い切る。
「日米ではD2Cの定義が少し違っています。アメリカでD2Cといえば『ユニークな商品・顧客体験のある、データとテクノロジーを活用したライフスタイルブランド』のような明確な定義があるのに、日本では『中間マージンを省くことで低価格で質の良いものを提供するブランド』という側面が強調されている。日本にはすでに安価で素晴らしいプロダクトは数多くあって、日本人の感性も洗練されていると感じます。だからこそ、自分たちは上質なライフスタイルブランドを作りたいんです」。
ディレクター 山中学氏
彼らの思想は一貫している。それは彼らのプロダクトやSNS、オフィスを見ても明らかだ。こうした共通の価値観を擦り合せるのが山中の役目である。「顧客像は明確でしたが、まずはメンバーのイメージをすり合わせながら進めることが重要でした。例えば、パッケージデザインやそこに使われるテキストも、全員の共有のイメージに沿っているかどうかを精査します」。
影響を受けたものを聞くと、沼田から意外な答えが返ってきた。
「アメリカにキャノピー(CANOPY)というコワーキング施設があって、イノベーターに向けて上質な空間を作ることでクリエイションを前進させるという価値観を持っています。この感覚を伝えたくて、全員でアメリカへ行きました。他には、アメリカに「パブリック(PUBLIC)」というブティックホテルがあって、現代のラグジュアリーを再定義している素晴らしい場所です。現代って、豪華な装飾よりも例えばWi-Fiが快適に使えるとか、そういった機能面もラグジュアリーの定義に含まれていると思うんですよね。すごくインスピレーションを得られました」。
最後に、これからの展望について尋ねた。中長期的な計画はあるのだろうか。
「商品計画を緻密に立てているというより、面白いと思ったものをすぐ作れるような余白を持つようにしています。そもそも、イノベーターは時代の流れとともに行動形態を変えてゆきます。例えば、キャッシュレスという流れの中で、今後どのような財布が必要になるのかは私たちもまさに考えているところです。時代的に今後はそもそも必要な財布が財布という形なのかもわからない。こうした概念や価値観に合わせて商品を作っていくことを今後もやっていきたいです」。