製品開発責任者 角森智至氏
アプリを作るかのごとく試作を重ねる
アトリエにはレザーのバックパック(5万9000円〜)やユーティリティーポーチ(2万2000円)、ケーブルバンド(3600円)といったプロダクトに加えて、最近試作販売したばかりの掃除機のパーツを収納する25万円のアタッチメントケース、その他試作中のアイテムが所狭しと置かれている。
私自身も「objcts.io」のバックパックを使っているのだが、それを見た彼らはあれこれ質問をしてくる。気がつけばユーザーヒアリングが始まってしまった。僕も使っているうちにいろいろと感じることがあったので、つい話し込む。こうした自然な会話を顧客と重ねることで、商品企画が生まれるようだ。
「イノベーターの感性を刺激するためには、熟慮された機能性だけを取り入れ、その上で使う楽しさや上質さを込めなければいけません。顧客の意見を参考にしたり、自分がほしいものを思いついたりしたらすぐに試作品を作って使ってもらい、フィードバックをもらってPDCAを回すんです」と沼田。
雑談レベルで話したアイデアが1週間でサンプルになることもあるそうだが、製品作りについて角森は、「たしかにファーストサンプルを作るまでの時間はとにかく早い。でも、その後の検証期間はかなりじっくりととります。また、もちろんフィードバックは大切ですが、商品に落とし込むときにはあくまで自分たちのフィルターを通すことが絶対です」と説明する。
ドローンケースも販売している(提供 : objcts.io)
顧客との「共創関係」を生み出す実空間
興味を持ってプロダクトを使っていれば、いろんな要望が出てくるのは当たり前。その熱量をきちんと回収できるためにも、ショールームが重要な役割を果たしている。「イノベーターがガジェットにこだわるように、それをどう持ち運ぶのかに対しても、強いこだわりがあります。顧客の中心は30代。上質なものを持ちたいと思いはじめる年頃でもあって、このブランドのニーズがあるのかもしれませんね」と沼田。
そもそも、顧客からの意見を回収するためにslack(コミュニケーションアプリ)を使うあたりも、イノベーターとの親和性が高い。もはやチームメンバー自体がイノベーターで、まさに顧客と“共創”関係にあるといえる。角森も時間がある限りはショールームで直接顧客と接することを続けているそうだ。
Macbookの表面に貼るレザースキンシール(提供 : objcts.io)
顧客との接点を持ちたいのであれば、店舗を持つことが手っ取り早いように思える。そのつもりはないのか、沼田に聞くと「店舗を持つと、そのぶんのコストを価格に転化せざるをえず、現時点では、適正な価格で商品を届けるためにも最優先事項ではないかなと思います」と答える。
「これはまだアイデアベースですが、今後はショールーミングの延長で、コワーキング機能をここに設け、イノベーターが気軽に定期的に滞在できるような空間を作れれば、お互いにメリットのある新しい関係性を模索できるんじゃないかと考えています」。